歌舞伎いろは

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歌舞伎女方の髪・入門

第1回 髪のかたち 髪に秘められたメッセージを読み解こう

女方に独特の美しさを与える、歌舞伎の結髪。 その形には、さまざまな意味や歴史が秘められているのです。

文・構成/田村民子、写真/小澤義人

床山さんの道具箱には、用途に応じたさまざまなくしが入っている。

 歌舞伎の役柄を大きく分類すると、男役である「立役(たちやく)」と「女方(おんながた)」があることは、よく知られています。では、かつらの髪を結い上げる床山(とこやま)の仕事が、立役と女方に分かれ専業化されていることは、ごぞんじでしょうか。

 歌舞伎の髪型は、千種類以上あるとも言われます。その決まりを覚えるだけでも気が遠くなりそうですが、立役と女方の鬘(かつら)は、それぞれ極めていく美意識が異なるそうです。このため、立役、女方に分かれて研鑽を積んでおられるとのこと。納得ですね。

 この連載では、女方の床山のベテランとして現役で活躍されている有限会社光峯床山の高橋敏夫さんにご指南役になっていただき、3回シリーズで女方の髪について基礎を学んでいきます。



問:演目によって髪型が違うようですが、初心者はどんな風に見ればいいでしょうか?

答:まずは、頭の上の「まげ(髷)」と、はえぎわの「たぼ(髱)」に注目してみてください。「まげ」は、お嫁さんのかつらでもおなじみの島田まげなどがあり、女方では30種類くらいあります。

 「たぼ」は、一般の方にはなじみが薄いかもしれませんが、髪を結う上では重要なポイントなんですよ。大きく2系統あって、お姫様などが登場する時代物の演目では「丸たぼ」、日常世界を描いた世話物では一般の人たちの髪型に近い「地たぼ」と決まっています。目で見て形を見分けるのはむずかしいかもしれませんが、ちょっと頭に入れておいてほしい知識ですね。

 時代物・世話物には分類されないのですが、初心者の方でもわかりやすい例を1つあげると、歌舞伎舞踊『藤娘』の「たぼ」は、鳥の尻尾のように上向いていて特徴があります。これは元禄時代に流行した形で、歌舞伎の髪型も史実を踏襲しています。


高橋敏夫さん。九代目澤村宗十郎を担当し復活物のかつらの結い上げにも多く携わった。現在、坂東玉三郎を担当。若い頃、理美容の勉強の一環として歌舞伎のかつらに興味を持ち、床山の仕事に触れる。以降、この道に入り40年。

『藤娘』のかつら(右)
「たぼ」に注目。左のかつらと比べると、「たぼ」が上向いていることがわかる。

問:女方がひたいの上に小さな紫色の布をつけていることがありますが、あれは何でしょうか?

答:私たちは「紫の帽子」と呼んでいますが、これには歴史的なエピソードがあるんですよ。昔のかつらは、今よりも単純なつくりだったので、頭につけたときに、ひたいの上あたりの見栄えがよくなかったんです。それを隠すために布をつけていました。今のかつらでは、そういう布は必要ないのですが、古い時代のお芝居ですよというサインとしてあえて残しているんです。つまりこの「紫の帽子」が出てくるお芝居は、時代物というわけです。

「紫の帽子」
これをつける代表的な役柄は、『壇浦兜軍記』の阿古屋、『仮名手本忠臣蔵』の顔世御前など。 ちなみに、襲名などの口上(こうじょう)の際、女方はこれより大きいサイズの紫の帽子をつける。素人にはよく似て見えるが、床山では区別して用いているそうだ。

次回予告 第2回は、お姫様や傾城の髪を彩る、美しい飾りものについて学びます。お楽しみに!

 床山さんの仕事場には、世話物の舞台にも登場するような古めかしい道具がいっぱい。しばらく身を置いていると、タイムスリップして江戸時代に迷い込んだような錯覚にとらわれます。かつらの髪も、古来の道具を用いて結い上げていますが、そのなかには椿油も含まれています(床山さんが使われる髪の油については、最終回で詳しくお伝えする予定です)。

 椿油は天然の美容成分をたっぷり含み、日本では古くから愛用されてきました。紫外線や乾燥などのダメージから髪を守りつやを与え、髪1本1本をうるおいのあるなめらかな状態に整える効果があります。また、スタイリングだけでなく、オイルパックや頭皮ケアなど、さまざまな使い方ができます。床山さんにも愛され続けている椿油。ぜひ、お試しください。

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