歌舞伎いろは

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博多座 「二月博多座大歌舞伎」  『封印切』 今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村翫雀

難しいのは「奥の小座敷」

 ──『封印切』の忠兵衛は、平成7(1995)年正月の大阪中座での翫雀襲名披露興行で初演されました。曽祖父様の初世中村鴈治郎の当り役を集めた「玩辞楼十二曲」にも収められている「家の芸」ですね。

 忠兵衛には八右衛門とのやりとりがあり、『封印切』の名の由来となっている飛脚便の三百両の封を切る場面もあります。芝居が盛り上がるように書かれ、しどころも多いので、和事の中では『河庄(かわしょう)』(心中天網島)の治兵衛や、未経験ですが、『廓文章(くるわぶんしょう)』の伊左衛門よりは入りやすいように思います。

 ──冒頭の花道の出はいかがでしょう。三百両を届けなければいけないのに、恋人の遊女梅川のいる廓につい足が向いてしまいます。

 『曽根崎心中』の徳兵衛や治兵衛と比べると出やすいですね。うきうきして通ってくるだけですから。一番難しいのは「奥の小座敷」ですよ。梅川と、ただじゃらじゃら、うだうだしているだけです。何をやっているんだろうという話ですが、あそこに二人の柔らかい雰囲気が出ないと面白くありません。

 ──その後はいかがでしょう。八右衛門が梅川たちに自分の悪口を言っているのが2階にいる忠兵衛の耳に入り、かっとして階段を駆け下ります。

 2階の窓を開けて様子を見て、かっとして降りてきます。梅川の見せ場と重ならないように、私は梅川のサワリが終わってから窓を開けています。そうでないと、お客様の目が梅川と忠兵衛に分散されてしまうような気がします。自分で梅川を勤めたとき(平成16年1月大阪松竹座)に、そう思いました。

 階段が正面についているのが成駒屋型の専売特許です。階段は結構、急こう配で、照明も当たっているのでちょっと怖いですよ。でも、無理に駆け降りなくても、気がせいて早く降りているように見えればいいわけです。

『仮名手本忠臣蔵』「九段目」(かなでほんちゅうしんぐら くだんめ)

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平成20年1月大阪松竹座
(C)松竹株式会社

 大坂新町の井筒屋の遊女、梅川は、恋人の飛脚問屋亀屋の忠兵衛が身請けの金を都合できずにいる間に、丹波屋八右衛門が身請けを言い出したのでふさぎ込んでいました。梅川が寄越した文を見て気が気でない忠兵衛は、公金を預かったまま井筒屋にやって来ます。久しぶりの逢瀬にも、つい恨み言が出る梅川…。
 梅川の抱え主、槌屋治右衛門は忠兵衛との話を進めることを決めますが、身請けの代金を持ってきた八右衛門は立腹して忠兵衛をののしり、忠兵衛が払った前金は盗んだものと言い出しました。それを聞いて、我慢できずに2階から駆け降りてきた忠兵衛は、実父の孫右衛門から大枚の小遣いをもらったと見栄を張ります。では、その金を見せろと迫る八右衛門、言い逃れようとする忠兵衛…。そのとき、ふとしたはずみで手にしていた公金の封印が切れてしまいます。取り返しのつかない状況を悔いる忠兵衛でしたが、いつしか次々と自ら封印を切って座敷中に身請け金を見せつけていました。
 忠兵衛が金を払ったので身請けの支度が進むなか、それが公金だったことを打ち明けて一緒に死んでくれと頼む忠兵衛に、梅川は3日だけでも夫婦の真似事をしたいと言います。梅川を先に送り出した忠兵衛は、祝儀にかこつけて廓へ弔い費用を渡し、梅川の後を追っていくのでした。

封印が切れてしまうのが成駒屋型

 ──封印を切るところはいかがでしょう。

 封印を切るのではなく、切れてしまうのが成駒屋型。はずみで切れてしまったほうが、お客様にも同情してもらえるのではないでしょうか。義太夫もそうついております。

 切れてしまったので、金に手を付ける。でも八右衛門以外の周囲の人たちは、あの時点では、忠兵衛が本当に三百両のお金を持っていたと思っている。あんな封印の切り方をしているのだから、そんなことはありえないのですが。でも忠兵衛ひとりは、どうやって逃げようかと思い、周囲の言葉は何も耳に入ってこないし、目が泳いでいる。梅川と一緒に逃げられる保証もない…。

 ──そして幕切れ。ここも、なさる方でやり方がいろいろです。

 成駒屋型では梅川が先に出て行き、忠兵衛は一人で花道を入ります。あそこは一人で引っ込みたい。そうでないと初代鴈治郎がやっていませんよ(笑)。初代は、お客様は自分だけを見に来ていると思っていたような人気役者ですからね。

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