歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「二月大歌舞伎」『熊谷陣屋』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村吉右衛門

ひと工夫してみたいところ

 ――繰り返し演じられてきた熊谷ですが、今回特に考えていらっしゃる箇所はおありですか。

 首実検で、熊谷は相模と藤の方を制し、「お騒ぎあるな」と口にします。皆さんが手をたたいてくださるところですが、熊谷が一番騒いでいるように見えてしまいがちです。大声を出さずにちゃんと止めて首実検の進行を妨げないようにする、というのができないかと考えています。

 間(ま)や息や形でそれができ、お客様が手をたたいてくださる気分になるにはどうしたらいいかと考えております。

 ――登場人物のほぼ全員が悲しみを背負っていますね。

 反戦の芝居とおっしゃる方がいますが、そうだなと僕も思います。相模、藤の方、義経、弥陀六、鎧櫃(よろいびつ)の中に入っている敦盛さんも悲しいんです。それを華やかな舞台で華やかな衣裳で綺麗な化粧(かお)で見せるのが歌舞伎だと、僕は思っています。

 熊谷が泣かずにお客様が泣いてくだされば最高です。熊谷の気持ちを察していただけるぐらいお客様を自分のほうに引き寄せられるかが勝負ですが、それが難しい。初代吉右衛門という人はそれができました。一度でもいいからこっちは全然泣かずに、お客様に泣いていただけたらと思います。

歌舞伎座「二月大歌舞伎」

平成31年1月2日(水)~26日(土)

一谷嫩軍記『熊谷陣屋』
(いちのたにふたばぐんき くまがいじんや)

熊谷直実 中村  吉右衛門 
藤の方 中村  雀右衛門 
源義経 尾上  菊之助
亀井六郎 中村  歌 昇 
片岡八郎 中村  種之助
伊勢三郎 尾上  菊市郎 
駿河次郎 尾上  菊史郎 
梶原平次景高 中村  吉之丞 
堤軍次 中村  又五郎 
白毫弥陀六 中村  歌 六 
相模 中村  魁 春 

熊谷と義経、異なる哀れさ

 ――平成28(2016)年10月の歌舞伎座では義経を演じられました。抑えたなかに気品と情のある義経でした。

 義経は源氏の御大将としての、貫目も出さなければならないし、この後、平家と同じように滅んでいく悲しみ、哀れさもちらっと出なければいけない、複雑な役です。あの場面の義経は絶頂期にあります。頂点に立ったら、もう落ちるしかないという典型みたいなものです。そんなものが、ちらっと出たら、熊谷の哀れさとはまた違う、源氏の大将の哀れさが出たらいいなと思います。

 ――弥陀六を平宗清と見抜いての「爺よ」というせりふも面白いですね。あそこで義経は、牛若丸といわれた少年時代に返ります。

 御曹司、御大将というところが、あの言葉ひとつで出ます。助けられた義経が逆転して、今は助ける立場にいる運命の面白さ。助けた者に滅ぼされるという平家の運命。それでもなおかつ、義経の温情で助けられた敦盛を弥陀六が世話していくという、人間のドラマみたいなものがあります。戦場の運命を背負った人たちの悲しみを、お客様にお芝居として味わっていただけたらと思っています。

 『熊谷陣屋』はそれぞれの人物がとてもうまく書かれています。元になっている「平家物語」というものが、そういうものを引き出せる素晴らしい作品なのではないでしょうか。その作品を浄瑠璃や芝居に生かした昔の方はすごいな、我々は勉強不足だなと思ってしまいますね。

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