歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」 平成29年度(第72回)文化庁芸術祭参加公演  日印友好交流年記念
新作歌舞伎 極付印度伝 マハーバーラタ戦記

インド叙事詩
「マハーバーラタ」とは

インド叙事詩「マハーバーラタ」とは

シャンタ・R・ラオ編「現代版マハーバーラタ物語」谷口伊兵衛訳(而立書房)

「マハーバーラタ」とは

 マハー=偉大な、バーラタ=バラタ族、つまり、偉大なバラタ族の話。バラタ族は紀元前1500~1000年頃からから有力部族として勢力を伸ばしました。この一族の物語を聖仙ヴィヤーサが象神ガネーシャに語ったしつらえで、原語はサンスクリット語です。今回上演される『マハーバーラタ戦記』は後半部分にあたり、王位の後裔争いを描いています。

桁外れの長さ!

 全18巻、10万詩節を超えるその長さは聖書の約4倍。原典の日本語訳はいまだ完結していません(英語訳の重訳では読むことができます)。でも、インドでは誰もが知っている話で、TVドラマや映画にもなっています。

世界的な文学作品として

 古代インドの神話的叙事詩として、ギリシャの「イーリアス」「オデュッセイア」と並ぶ世界三大叙事詩の一つに数えられ、「ラーマーヤナ」と双璧を成すインド二大叙事詩の一つでもあります。日本では、イギリスの演出家ピーター・ブルックがワールドツアーの一環として1988年6月、銀座セゾン劇場で上演したのが大きな話題になりました。「賭け」「追放」「戦争」の三部作で上演時間はなんと9時間。

クリシュナがアルジュナに語る「バガバッド・ギーター」は、みどころの一つ

どんな物語?

 神々が人間界をつくり出すところから始まり、中心となっているのは、バラタ族のなかのカウラヴァ家(クル家)とパンダヴァ家(パーンドゥ家)の対立です。

 パーンドゥ王は呪いを受け、妻と交わることができません。神を呼び出す呪文を知っていた妻のクンティが、神々との間にもうけたのがユディシュティラ、ビーマ、アルジュナで、王のもう一人の妻マードリーと神の間にもナクラとサハデーヴァが生まれ、パンダヴァの五王子と呼ばれています。

 クンティには太陽神との間に生まれた子もいました。若かったクンティがそっと川に流してしまったその子「カルナ」は、貧しい御者のアディラタ夫婦に育てられました。太陽神の子であるカルナは、生まれながらに耳輪を身につけていました。

 一方、パーンドウ王の兄、盲目の王ドゥリタラーシュトラには、ドゥルヨーダナをはじめとする100人の息子がいました。その中心にいるドゥルヨーダナは、パンダヴァの五王子を憎み、さまざまな手を使って彼らを殺そうとします。そしてついに、クルクシェートラで戦いの火ぶたが切って落とされました。カルナはドゥルヨーダナの側につき、宿命のライバル、アルジュナら五王子と対決することになります。

戦争の話?

 両家が権力争いでさまざまな画策をし、戦記としても波瀾万丈の物語になっていますが、そこに神との対話や賢者の助言として、たくさんの教訓が入っています。それらが、インドの哲学、宗教の原点となっており、特に有名なのが神の歌を意味する「バガバッド・ギーター」です。

「バガバッド・ギーター」って?

 パンダヴァの五王子の一人、アルジュナが戦いを前に、親族でありながら敵対し戦うことの虚しさを嘆くのを聴き、賢者クリシュナが語りかける巻を指します。神へ通じる道として、執着を捨て、もろもろの行為をせよとクリシュナは説きます。アルジュナはすべてを神クリシュナに委ねます。

戦争の話なのに、哲学なのですか?

 戦争を前にして軍を率いるアルジュナが、気力を失ってしまう「バガバッド・ギーター」の場面に続き、クルクシェートラで一大決戦が行われました。主な武将たちの多くは、戦場に消えました。その後、ユディシュティラは正式に王位につき、国に繁栄をもたらしたのです。この決戦では、壮大で華麗な戦争のありさまを描くとともに、悲惨さ、哀しみをも浮かび上がらせています。

この作品が10月の歌舞伎座で、
新作歌舞伎『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』として上演されます

 主演は尾上菊之助。『NINAGAWA十二夜』から12年、菊之助自身が再び熱い思いを傾け、企画からとり組んだ新作歌舞伎となります。

 演出は、静岡県舞台芸術センター(SPAC)の芸術総監督であり演出家の宮城聰。2014年7月、世界最高峰の演劇の祭典「アヴィニョン演劇祭」(フランス)で、20年ぶりの日本人演出家の作品として『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』を上演。その成果をもって2017年同演劇祭のオープニング作品として『アンティゴネ』を上演しました。これはアジア圏の劇団として史上初の快挙です。

 脚本は舞台、テレビドラマでバラエティーに富んだ作品を手がける青木豪。今回初タッグとなる二人が、初めて歌舞伎作品に挑みます。

菊之助が語る、インド叙事詩「マハーバーラタ」の魅力とは

 血の繋がりのある二つの勢力が、権力争いをし、その物語は神様が密接に関わり、道徳、哲学、宗教を交えながら、絶望的な大戦に向かって行き、どうしてそれが起きたかについて語られています。

 また、物語に登場する人物は、どの人物もたいへん魅力的で、個性豊かです。紀元前に書かれたインドの叙事詩ですが、現代にも通じる濃密な人間ドラマに魅力を感じます。

日印文化協定締結60周年に当たる2017年、8月には菊之助がインドで舞踊『鐘ヶ岬』を披露します

 「この度は駐インド特命全権大使の平松賢司さんのお招きで、インドの日本大使館にて、前半がインドの舞踊団の方による『カタカリダンス』、後半に私が『鐘ヶ岬』を踊らせていただくという、双方の伝統芸能が上演される機会をいただきました。この様子は後日公開いたします」(菊之助)

撮影=加藤 孝
The Mahabharata, retold by Shanta Rameshwar Rao and illustrated by Badri Narayan. Copyright Orient Blackswan Pvt Ltd 1985. Used with the permission of the publishers.