3年前、演出家の宮城聰さんがフランスのアヴィニョン演劇祭で上演されたSPACの『マハーバーラタ』が好評で、その年の9月にKAAT(神奈川芸術劇場)の凱旋公演を拝見したのが、きっかけです。神と人間が織りなす物語の面白さと、パーカッションの音楽に心打たれ、歌舞伎として上演できないかと考えました。
実は、その10年以上前、演劇評論家の長谷部浩さんのご紹介で宮城聰さんに一度、お会いしていました。
「マハーバーラタ」の上演が現実的になり、青木豪さんに上演台本の作成をお願いした理由は、蜷川幸雄さんの『ガラスの仮面』(2008年さいたま芸術劇場初演)で、あれだけの長編漫画を数時間の舞台にまとめ上げられたとうかがったからです。
歌舞伎での上演は、宮城さんのアヴィニョン版と同じではいけません。昨年から中心となるスタッフとミーティングを重ね、新たな角度から「マハーバーラタ」を、再度、再構成する案を練りました。カルナらを中心とした『マハーバーラタ戦記』にまとまって、とてもうれしいです。
宮城さんは、古典の歌舞伎の様式を大事にしたいとおっしゃっていますので、登場人物を歌舞伎の代表的な役柄に当てはめていき、場面もできる所は、歌舞伎の代表的な演出に落とし込んでいこうと考えています。そして通し狂言ですので、義太夫の入る時代な場面もあり、世話の場もあり、所作事も考えています。
あのとき、蜷川さんは稽古場で常に歌舞伎ではどうするのかと問われ、父(菊五郎)をはじめ一座の皆さんがどうしたらこれが歌舞伎になるのかと力を尽くして、再演を重ね、ロンドンでも公演することができました。
この12年、自分が経験させていただき、先輩方にお教えいただいた古典歌舞伎の蓄積をどう体現できるのか。父のようにはいきませんが、今回も皆さんのお力をお借りし、お客様に長く愛される新作歌舞伎をつくりたいと思っています。
今年は日本とインドの交流をさらに活発化させるために定められた、日印文化協定発効60周年の節目の年です。その年にインドの叙事詩「マハーバーラタ」を歌舞伎で上演できることに不思議な縁を感じています。
文化交流は心の交流ですので、「マハーバーラタ」を通して、お互いの国を知るきっかけになればいいなと思います。
そしてこの8月19日から、駐インド特命全権大使の平松賢司さんのお招きで、文化交流のため、初めてインドを訪れます。首都デリーは、劇中で大きな役割を果たすパンダヴァの五王子がつくった町であるともいわれています。この機会にゆかりの地を訪れて現地の空気感、土地を感じ、作品に反映させていきたいと思っています。
撮影=加藤 孝
The Mahabharata, retold by Shanta Rameshwar Rao and illustrated by Badri Narayan. Copyright Orient Blackswan Pvt Ltd 1985. Used with the permission of the publishers.