歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」 平成29年度(第72回)文化庁芸術祭参加公演  日印友好交流年記念
新作歌舞伎 極付印度伝 マハーバーラタ戦記

音楽はどうなる?

音楽、棚川寛子が語る

音楽 棚川 寛子(たなかわ ひろこ) 舞台音楽家。演劇作品の音楽を作曲し、俳優への演奏指導と併せて行うスタイルで活動している。2003年、宮城聰演出ク・ナウカ シアターカンパニーの『マハーバーラタ』で朝日舞台芸術賞を受賞。2014年同作品と、2017年『アンティゴネ』がフランス、アヴィニョン演劇祭に正式招聘され、SPACによる上演で絶賛された。そのほかにも小学校や児童養護施設でのワークショップ等、精力的な活動を続けている。しかし、正規の音楽教育をまったく受けていない、いわばこの分野でのアウトサイダーアーティストともいえる稀有な存在である。

――どんな音楽がどのように使われるのでしょうか。

 歌舞伎音楽と私たちがつくるパーカッションの曲が使われます。最初の打ち合わせで、ここは傳左衛門さん(囃子)と巳太郎さん(長唄)、ここは竹本さん、など、すり合わせをしました。ところどころ融合するところもありますが、私たちの音楽が歌舞伎音楽のスタイルと違うので、合わせてみてどうなるか、まだ想像がつきません。

――では、その棚川さんの音楽とは、どのようなスタイルなのでしょうか。

 今回は、20~30種類の楽器、基本的に弦ものではなく、たたけば鳴るものを使います。ジャンベなどアフリカ系の太鼓やブラジルのスルド、中東のサントゥール、それからスチールパン等々。インドの楽器はタブラくらいです。メインは鍵盤系の打楽器、木琴や鉄琴といったシロフォン系です。私たちの曲には和楽器は入りません。

 台本を読み込み、(演出の)宮城さんと打ち合わせ、ここにどんな音があったらいいだろうかとイメージをふくらませました。今のところ40曲くらい入る予定で、すべてこの『マハーバーラタ戦記』のための曲です。冒頭の「クリシュナ」から手を付け始め、「カルナ」という曲もあり、シーンによっては「悩めるカルナ」という曲もあります。登場人物全員のテーマ曲があるというわけではありませんが、神にはキラキラした感じというように、シーンと登場人物のイメージに合わせて音色、フレーズ、テンポを考え、試行錯誤しながらつくっています。

びっしり貼り込まれた付箋、そして書き込み。せりふに赤字で、きっかけやイメージが細かく書き込まれています。 棚川さんのせりふに合わせて始まった演奏。俳優との合同稽古を前にして、すっかり演奏はでき上がっている様子でしたが、このあとどう変わっていくのか…。

――楽譜を書かれないとうかがいました。

 楽譜は一切ありません。今回の演奏者は、SPAC(静岡県舞台芸術センター)の公演で何度か一緒にやっているメンバーなので、口頭でイメージを伝え、実際の演奏を修正したりと、超アナログにつくっています。俳優さんたちなので、せりふを聞いてボリュームの上げ下げはわかるのですが、ミュージシャンではありませんので、演奏技術についてはプロとは違う。傳左衛門さんや巳太郎さんはじめ一流の方々とご一緒するので、今回は私から出す要求も厳しくなり、ちょっと皆には悪いなと思っています。

 楽譜はありませんが、きっかけなどすべては台本に書き込んでいきます。ですから、楽譜は台本です。演奏者も台本に書き込んでいます。曲はせりふと一緒に変化していくので、せりふが変更されると、一曲まるごとなくなることが出てくるかもしれません。

――歌舞伎には音楽とは別に、効果音としてのツケもありますが。

 私たちの演奏はツケと合うと思います。ツケが入ってから音楽が入ったり、登場のツケにつないで音楽を入れたり、うまくバトンがわたるように、違和感がないようにしたいと考えています。

 今は大先輩のなかに交じってとても緊張しています。ご覧になった歌舞伎座のお客様が、いつもと違うなとがっかりされないようにチャレンジしますが、新旧うまく融合して素敵な化学反応が起こるといいなと。ご期待にそえるよう全力を尽くしていきたいと思います。

撮影=松竹写真室