――歌舞伎や「マハーバーラタ」は、どのような存在でしょうか。
歌舞伎を初めて拝見したのは『仮名手本忠臣蔵』の通しだったのですが、「大序」の幕が開くと俳優さんが身じろぎもせずにたくさん並んでいらして、その様式美の美しさに心惹かれました。ひらすらきれいだと思いながら観ていたのを覚えています。
宮城さん演出の『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険』は駿府城で行われた公演で拝見しています。後ろの森を借景としたその舞台は本当にきれいで、神様の影が森に映った瞬間に「神様は本当にいる」と思えました。
――新作歌舞伎『マハーバーラタ戦記』の執筆に当たって着目された点は?
最初は宮城さんの作品をそのまま歌舞伎化するのかと思っていたのですが、そうではなく「『マハーバーラタ』全体から新しいものをつくりたい」というお話でした。
原作はあまりにも長く、そのため途中までしか訳されていないという物語です。原文を元にしたいくつかの書物を拝読するうち、カルナの目線で書いていくと面白いものができるのではないかと思いました。
――カルナを主人公にされた決め手は?
百人の子をもつ兄と五人の王子の父である弟、敵対する王族の争いが起こるのですが、その戦にカルナも関わっていきます。カルナは(王族争いの兄弟から)外部の人間ですから、両家の争いを客観的に観察することもできますし、そのなかに入ることによって主軸にもなり得る。
カルナを菊之助さんに演じていただけば、この物語が全体的に見えるのではないかと思いました。
――歌舞伎化に当たってはどのようなプロセスで進んでいったのでしょうか。
書かせていただいたプロットを読んでいただき、関係者全員で会議をし、「このキャラクターはもっとこんな感じがいいのではないか」というようなアドバイスをいただき、修正を加えていくというような進め方です。
歌舞伎らしい言葉の語彙が少ないものですから、そのあたりはいろいろな方にお助けいただきました。関係者と会っては話し、話しては直す、という日々でした。
――その過程でどのようなことを感じられましたか。
原作の「マハーバーラタ」というのは本当に話のスケールが大きく、神々と人間の間で起こることはちょっと僕らには想像ができないことばかりです。普段、自分が書いているのは市井の人間の会話劇が中心で、歴史劇を書くこともありますが、神々と触れ合うところまでいったことはありません。
宮城さんとお話していると、常に「世界と演劇」というものを意識されているのだと感じます。菊之助さんも「これはもっと大きいほうが」ということをよく口にされ、ある意味、そうした大きさとの格闘でもありました。
――そうやって書かれた脚本が実際の舞台の上演されるのは楽しみでしょうね。
はい。最終的には音羽屋さん(尾上菊五郎)が、神の視点でお芝居全体を包んでいただくことになると思います。しばし日常を忘れるほど、ものすごくきれいで、そして壮大なものになると信じています。
取材・文=清水まり 撮影=松竹写真室