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第3回歌舞伎美人サロン 清方芸術のなかの歌舞伎〈その三〉

第3回歌舞伎美人サロン 清方芸術のなかの歌舞伎

 昨年の12月7日(月)、サントリー美術館で行われた「第3回歌舞伎美人サロン」の模様をお伝えするニュースの三回目です。
 ゲストの松竹衣裳株式会社常務取締役 海老沢孝裕氏とサントリー美術館学芸員 三戸信惠氏の対談の後半は「きもの、着こなしの視点から清方作品を鑑賞する」がテーマ。その中で、同展のポスターやチラシ、図録の表紙などに取り上げられている「春雪」についてのお話などを、一部ご紹介いたします。

※同美術館ではこの日、『清方/Kiyokataノスタルジア―名品でたどる 鏑木清方の美の世界―』が開催中でした。

■春雪(下写真参照)
三戸―――
 太平洋戦争中、美人画は軟弱な非国策画とされ、清方も美人画を世に出すことはできなくなっていました。終戦後、日展開催の知らせを受け制作意欲が沸いた清方は、この「春雪」を描き上げて、第1回日展に出品しました。武家の女房が雪降る中、外出から戻った夫の羽織をたたんでいます。イメージソースは日毎に色の変化を見せる富士の風景。小袖の裾には雪輪を描き、その間に梅や水仙の花を配し、袖からも梅が覗き、間近に迫る春の気配が伝わります。この絵では、海老沢さんはきものだけでなく、襦袢(じゅばん)の柄にも着目なさいました。



海老沢―――
 雪輪の柄はきものだけでなく、襦袢の上に重ね着した2枚の丸下着にも入っています。日本に古来からある紺色の一種の"勝色系"の丸下着と襦袢が朱色の丸下着をはさみ、朱色を引き立てています。また襦袢に濃い色を持ってきて顔の白さを引き立てる趣向が凝らされています。僕らも役者さんに勧めるときに、やっぱりこう、顔が引き立つ柄とか色を選びますよね。清方って方は観察力が凄いんだなと思って見ていました。
 きものの裾の色は新緑の富士の裾野の色のようできれいです。帯の柄は正甲(しょっこう)と言い、神社、仏閣の天井柄で格天井(ごうてんじょう※)とも言います。多くは織物が主ですが、この帯は染物のようなしなやかさがあるので、染めた物かもしれませんね。お芝居でもこの帯と同じ物があります。
 たたんでいる羽織の黒の縮緬の質感がとてもよく出ています。"黒"という色はなかなか出ないんです。昔の方はご存知だと思いますが、紅下といって、下に紅い色を染める。一度、赤を染めてから黒の染料を染めると本当の黒がでるんです。
※格天井(ごうてんじょう)とは、木を格子に組んで、それに板を張った天井のこと。

第3回歌舞伎美人サロン 清方芸術のなかの歌舞伎

▲ 「春雪」(サントリー美術館蔵)の前で。

第3回歌舞伎美人サロン 清方芸術のなかの歌舞伎

▲ 「桜姫」の前で。左には「梅王」が見える(2点とも新潟県立近代美術館蔵)

 

三戸――――
 清方は何十年も前の明治のころの記憶でも全部明確にイメージして、昭和の時代になってから描いています。その記憶力のすごさ、リアリティに感心します。

海老沢―――
 そういう「絵」は芝居に活かせますよね。「ああ、そうだったんだ、こうだったんだ」と。知っている部分もありますが、知らなかった部分もたくさんありますので、役者さんと相談するときに「自分が生きていて見てきたわけではないですけれども、こういうほうが良いんじゃないんですか」という話ができそうです。

三戸―――
 ご自分のお描きになったものが後世に芝居に活かされていくというのは、多分予想にもしておられなかったことでしょう。芝居好きだった清方先生も天国で喜んでおられると思います。

 『清方/Kiyokataノスタルジア―名品でたどる 鏑木清方の美の世界―』は、2010年1月11日をもって終了し、サントリー美術館は、1月12日(火)~1月26日(火)は展示替えのため休館しております。
 1月27日(水)からは「サントリー美術館所蔵品展 おもてなしの美 ―宴のしつらい」
が開催されます。日本のおもてなしの心が育んだ美の世界を探る、という同展も、歌舞伎美人読者の皆様の心に響くことと思います。ぜひ、足をお運びください。

2008年01月13日

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