菊五郎・菊之助 大阪松竹座『NINAGAWA十二夜』で意気込み

菊五郎・菊之助 松竹座『NINAGAWA十二夜』で意気込み

 現在新橋演舞場で上演中の『NINAGAWA十二夜』。7月から行われる大阪松竹座公演に向けて、尾上菊五郎、尾上菊之助が意気込みを語りました。

尾上菊五郎
 四年前、歌舞伎座の『NINAGAWA十二夜』初演の初日、スタッフが集まって行なったパーティーの席上で、この公演がロンドンでできたらいいなという声があがりました。その思いが4年経ち実現し、凱旋公演として六月新橋演舞場、七月大阪松竹座で上演できることを大変嬉しく思っています。

 シェイクスピアも400年経ってから、地球の裏側からロンドンへ歌舞伎という芸能団体がやってきて自分の作品をやるなんて、与三郎じゃないですが「お釈迦様でも気がつくめぇ」とびっくりしたと思います(笑)

 丸尾坊太夫(マルヴォーリオ)はサー・ローレンス・オリビエも演じたことのある役ですからプレッシャーは感じます。この男は生真面目でなくてはだめで、まじめにやればやるほどおかしい役です。捨助は歌舞伎にもない役柄ですが、よく考えてみると、これは江戸時代までの歌舞伎役者の原点だと・・・即興で唄をうたったり、踊りを踊ったり、そう思ったら意外とやりやすくなりました。

 舞台では真実のみを映し出す根本の形として鏡が印象的に使われます。劇中の事はみんなほとんどが嘘ばかり・・・坊太夫が騙され、織笛姫が恋をするのも。綺麗で言葉も分かりやすく心地よい舞台をぜひ楽しんでいただきたいと思っています。


尾上菊之助
 2005年、2007年と再演をかさね、今年の3月ロンドン公演を行うことができました。いままでは、シェイクスピアを歌舞伎にしようという思いが強かったのですが、今回ロンドンに行ったことでもう一度作品を見つめ直し、以前にも増してシェイクスピアの香りがする作品に成熟したと思っています。

 獅子丸を小姓として演じるのではなく、琵琶姫が小姓を演じているということが表現できるようになり、自分の中では大きな進歩だと感じています。いつ女を出そうか、いつ男になろうか、以前はそれをずっと考えていたのですが、再演を繰り返していくうちに、そういうことを考えずに、琵琶姫が芯にあり彼女があくまでも小姓を演じているという表現方法をみつけていきました。それは切替しという感覚が、ボリュームを調整するような表現方法になった感じです。

 ロンドンは演劇が生活に密着している厳しい場所でした。そこで上演させていただけたことは、自分の中でとても良い経験になりましたし、また挑戦したいと思っています。そしてこの『NINAGAWA十二夜』を通じて、歌舞伎の懐の深さを知ることができたことも大変良い勉強になったと思っています。

菊五郎・菊之助 松竹座『NINAGAWA十二夜』で意気込み

蜷川さんの演出について―――
菊五郎
 蜷川さんのお芝居は、開演から数秒、数十秒が芝居の勝負、最初にテーマを全部出してお客様を引き込んで掴んでしまいます。そういう演出は歌舞伎にも欲しいと思います。歌舞伎では"塵鎮め"といって、幕が開いたときにたつ塵が収まるのをまって入ってくるお客様もいますが、今回は幕開きが面白いから、かならず見逃さないでくださいねとお知らせしているんですよ。

 蜷川さんは、シェイクスピアをずっと勉強なさっているから、ちょっと下品な事をしても、「大丈夫、シェイクスピアの劇は本当に下品だから、どこまで演じても大丈夫です」と、そういう部分も完全に入ってらっしゃいます。こちらが戸惑いながらすると、かえって駄目なのかもしれません。

菊之助
 幕が開いてから一瞬のうちにシェイクスピアの世界にお客様を引き入れてしまうテーマの押し出し方、そして圧倒的な美しい世界を創り出す世界観、こういう素晴らしい物を創り出す蜷川さんをとても尊敬しています。そして、演出家としての決断にもぶれがなく、悩んで答えを出している姿をあまり見たことがありません。本当に素晴らしいと思います。


松竹座公演に向けて―――
菊五郎
 七月の大阪は天神様のお祭り月で、このお祭り騒ぎのような『NINAGAWA十二夜』の上演と重なることも大変嬉しく思いますし、細かいアドリブなどに大阪のお客様がどのような反応をしてくださるかも、いまから楽しみにしています。

 シェイクスピアということもあって、新橋演舞場には大勢の若いお客様がお見えになっています。そして大阪では『NINAGAWA十二夜』の上演が200回を迎えることになります。関西・歌舞伎を愛する会の方々はもちろん、若い方々にも歌舞伎を一度ごらんになっていただき、次もまた観に来て下さるきっかけになるような公演になったらいいなと思っております。

 実は、いまから松竹座での早替りの移動方法を考えています。ここで衣裳を替えて、どのルートで移動をして・・・と(笑)それと坊太夫のウコン色の衣裳が、少し"タイガースカラー"に似ているので、どうしたものかと困っています(笑)

菊之助
 左大臣と琵琶姫の恋の掛け違い、坊太夫と洞院の階級の違い、それぞれのストーリーが上手く絡み合ったロマンスコメディーが『NINAGAWA十二夜』です。理屈ではない大きな世界でストーリーが進んでいくところも古典歌舞伎とシェイクスピア劇が共通している部分だと思います。

 今回の凱旋公演では、ロンドン公演とほぼ同じ内容で上演致します。ロンドンの風を、大阪の方々にも観て感じていただきたいと思いますし、歌舞伎の好きな方はもちろん、歌舞伎をまだご覧になったことのない方にも、ぜひ観ていただきたいと思っております。

 公演情報はこちらをご覧下さい。

2009/06/16