染五郎が「知られざる歌舞伎座の名画」展で特別講演を行いました

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 山種美術館で開催されている「歌舞伎座建替記念特別展 知られざる歌舞伎座の名画」の特別記念講演として、10月29日、市川染五郎が「聖地であり、戦場である歌舞伎座」と題した講演を行い、歌舞伎座に展示されていた名画や歌舞伎座の思い出を語りました。

 展覧会では、歌舞伎座の各所に飾られていた名画の数々と再会し、様々な思い出が蘇ってきたとのこと。特に印象に残っているのが、川端龍子画の『青獅子』だそうです。
 「僕が最も多く目にしたのが、階段の踊り場に飾られていたこの作品だったと思います。と言いますのは、客席で舞台を拝見するときは上手の2階最後列を自分の定位置と決めておりましたので、必ず階段を通ります。そのたびに、素敵な絵だなとは思っておりましたが、今回、美術館で拝見して、こんなに大きな作品だったのかと驚きました。それを気づかせないぐらい歌舞伎座が大きく、立派な場所だったと思い知った気がいたしました」

 もう一つは、初代中村吉右衛門の句に初代松本白鸚が蝶の絵を添えた扇面屏風。曽祖父と祖父の合作ということになります。
 「昔は出番の合間に絵を描いたりして過ごす役者が少なくなかったようです。限られたスペースでやるには絵はちょうどよかったのでしょう。そんなところから絵は役者の必修科目になっているところがありまして、私もいたずら書きみたいな絵を描きます。"市川染五郎の知られざる名画展"なんていうのを、いつか山種美術館でやっていただけたらと思います(笑)」

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▲ 「自分でもスケッチを描くので、気になった」という木村荘八「歌舞伎もの十八番」より『勧進帳』(昭和3年)

 歌舞伎座で思い出深い舞台は平成2年2月、初めて会長賞をもらうことになった『京人形』。そして、初役で演じた平成4年8月『義経千本桜』の小金吾。
 「『京人形』は子役時代の僕に芝居を仕込んでくれた祖母が亡くなった直後で、もう何かを言ってくれる人はいないのだという不安のなかで演じた作品でしたので、会長賞と聞いたときは泣いてしまったのを覚えています」
 「小金吾は歌舞伎座がとてつもなく大きな空間に感じられた作品でした。いつもと同じ距離のはずなのに、正面のドアがはるか遠くに感じられる。まるで野球場の真ん中でポツンと芝居をしているような、自分が米粒のように小さく感じられた作品でした」

 「歌舞伎座は、守ってくれる場所でもありますが、僕にとっては、この場所にふさわしくないとなれば、即座に突き放される恐ろしい場所でもあります。ホームグラウンドというより、憧れの聖地であり、戦う場所であると言ったほうが僕にはしっくりくる。暖かく厳しい、それが僕にとっての歌舞伎座です」と、最後は歌舞伎座への思いで講演を締めくくりました。

 特別展はいよいよ11月6日(日)まで、ぜひ、ご覧ください。

「山種美術館【歌舞伎座建替記念特別展】知られざる歌舞伎座の名画のご案内」

2011/11/01