海老蔵が語る「五月花形歌舞伎」

市川海老蔵
 5月3日(金・祝)に初日を迎える京都四條南座「五月花形歌舞伎」に出演する市川海老蔵が、公演に向けての思いを語りました。

市川海老蔵

勧善懲悪では収まらない『鎌髭』
 歌舞伎十八番『鎌髭』は、四世市川團十郎(当時三世海老蔵)が初演した演目を、海老蔵が新たな構想で復活上演するもので、海老蔵は悪七兵衛景清を演じます。

 「勧善懲悪が根本の歌舞伎十八番のなかに、青黛(せいたい)が混じっている意味を明確にしたい」。お馴染みの『暫』の鎌倉権五郎や『助六』、『矢の根』の五郎が紅で隈を取るのに対し、歌舞伎では悪を意味する青黛を取って登場する景清、そこに海老蔵は着目し、源平の合戦の世界を描き出そうと考えます。そして、父、十二世團十郎の遺志を受け継ぎ、今回の『鎌髭』上演に至りました。

 誰も見たことのない場面の芝居ですが、海老蔵が頭の中で思い描いているのは、「罠を仕掛ける人間がいて、罠にはめられることを知っていて乗込んでいく男。わかっていて罠にはめられるので、なんということもなく、仕掛けた相手の負のエネルギーを圧倒し、悠然と去っていく男、その強さを表現できればいいと思っています」。実は、團十郎さんにその強い男、景清役を演じてもらう予定だったそうです。「父は大病を克服し、"蘇る"イメージがある俳優の一人だったので、演じてもらいたかったし、そういう意味合いのせりふも予定しています」。残念ながら願いはかないませんでしたが、自らがその役に挑んでの上演となります。

海老蔵が関西圏で初の『伊達の十役』
 平成22(2010)年1月、同24(2012)年8月の新橋演舞場に続く、3度目の『伊達の十役』については、「初演は体力との闘い、再演は2回目というものとの闘い。一つひとつの役を掘り下げるのが3回目」と、早替りのスピードで見せる大切さも持ちながら、さらに進化した姿の『伊達の十役』を、関西圏の方々にも見ていただきたいと、意欲を見せます。

 そして、「何十年かかるかわからないけれど、いつかは七世團十郎がやっていた役も含めてやってみたい」と、初演の七世團十郎に対する熱い思いへと至ります。七世團十郎とは、四世鶴屋南北といくつもの名作を生み出し、歌舞伎十八番を制定した人であり、「完成度の高い芸術」である『勧進帳』をつくり上げた、海老蔵にとっては特別な存在です。

歌舞伎十八番は全部復活させる
 「七世團十郎は歌舞伎十八番をつくったけれど、全部は勤めていない。九世團十郎も新歌舞伎十八番をすべて勤めたわけではありません。後続の誰かがやらなければいけないんじゃないでしょうか」。海老蔵は、歌舞伎十八番に対する責任感から、全演目の上演を目指しています。「現代に合うものにするのは当り前。当り前のことをやっていくだけです」と、復活上演までの生みの苦しさを乗り越え、「お客様が喜んでくださったときが、楽しいと思えるとき」と言い切ります。

 「歌舞伎十八番の全部の復活は、生涯をかけて取り組みます。それも早い段階で」。最後は力強い宣言が出て、今回の公演がまさにその目標への大きな一歩であることを感じさせました。

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2013/04/16