市川右近が語る『高時』『伊達の十役』

高時 市川右近高時 市川右近伊達の十役
 市川右近が、上演中の出演演目『高時』と『伊達の十役』について語りました。(写真左・中『高時』北条高時、写真右『伊達の十役』八汐)

ゆかりのある南座の舞台で
 今回の「五月花形歌舞伎」は、私の歌舞伎俳優人生の原点である初舞台(昭和47年6月)を踏ませていただき、そして、師匠・市川猿翁との出会い(昭和48年5月)ともなった南座での公演です。関西生まれでもありますし、子役時代から育んでもらった劇場で、非常にご縁を感じております。前回南座へ出させていただいたのは、未曾有の被害をもたらした東日本大震災の起きた平成23年3月、1人で15役早替りをした『獨道中五十三次』公演のときでした。何かできることはないかと義援金なども募らせていただきましたが、ただただ毎日全力で必死に舞台に立ち続けさせていただきました。

昼の部『高時』北条高時
 澤瀉屋にはあまりなじみのない演目で、お話をいただいたときは驚きました。しかし、新しい歌舞伎を創造しようとしていた時代につくられた作品でありながら、古風な義太夫節が入っており、複雑な人間像を描いております。そういうところが、スーパー歌舞伎など新しい歌舞伎をつくり上げてきた澤瀉屋のカラーにあっているのかなとも思っております。そして、新歌舞伎十八番の名を汚さないように、完成度の高いものにすべく勤めております。

 執権北条高時の史実に基づいた活歴物です。驕った傲慢な高時とチャーミングな一面も併せもっているのではないかという、役の裏側の部分をも掘り下げ、明治期にできた近代合理主義リアリズムの芝居というものを追及していきたい。多面性を練り込み、表現できていればと思っております。

 烏天狗との田楽舞では、多少のアレンジをしております。前半のリアルなせりふ劇とは対照的に、幻想的な場面が展開します。そういうところも、このお芝居の面白さではないでしょうか。

夜の部『伊達の十役』八汐
 市川海老蔵さんと共演している八汐は、河内屋型という珍しい型で、私は関西では初めて取り組ませていただきます。子供をなぶり殺しにする残忍な役ですが、歌舞伎ならではの残酷さも楽しんでいただけたらと思っております。また、師匠猿翁から教わったものを次の世代の方へ伝え残していけるように、演出補も担当、携わらせていただいております。

 27日までの公演です、ぜひとも劇場へ足をお運びください。

※澤瀉屋の「瀉」のつくりは正しくは"わかんむり"です。

2013/05/17