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木挽町芝居之噺 ―演劇評論家 水落潔氏に8月の歌舞伎座の芝居についてうかがいました―

木挽町芝居之噺 今回は、 歌舞伎座 「八月納涼歌舞伎」のみどころを、演劇評論家の水落潔氏にうかがいました。

『恐怖時代』
 谷崎潤一郎作の悪人ばかり出てくる異色作で、大正5(1916)年の発表当時、悪魔主義といわれて発禁になりました。悪人が活躍する物語はやはりわくわくします。凄惨な殺し、意外などんでん返し、物語展開の面白さがあります。魔性の女という谷崎好みのお銀の方と、女性のような話し方をするクールなお小姓の伊織之介、扇雀と七之助の配役がうまくはまりました。見た目は凄惨ですが、そこに、美しい女の前にはひれ伏す以外ないという谷崎の生涯変わらぬ思想が見受けられ、普通の新作歌舞伎とはひと味違った作風になっています。

『龍虎』
 白楽天の詩と能の『龍虎』から八世三津五郎がつくった舞踊です。龍と虎の戦いというダイナミックな素材が、獅子物の後ジテのような激しい舞踊となって表現されており、技術的にも難しいものがあります。かなり体力を要しますが、獅童が風格を見せ、巳之助も進境を見せています。嵐のような場から一転、最後は中天に月がかかり、動から静に至る踊りになっています。また、大口の能装束から隈取の獅子舞踊のような形になり、最後は隈も取れて非常に静かな踊りにと、視覚的変化もよくできています。

『輝虎配膳』
 近松の時代物で短いひと幕ですが、時代物の典型的な役柄がそろっています。十三世仁左衛門がしばしば演じて当り役にした輝虎を橋之助が演じており、逆上する様を一枚ずつ衣裳を脱ぐことで表現するなど、歌舞伎の様式美を見せる芝居になっています。越路は三婆の一つでもある大役で気丈な老女、お勝には『傾城反魂香』の又平のように言葉がままならないため、琴を弾きながら輝虎の怒りを鎮めるといった、女方の技術の見せどころもあります。直江、唐衣も時代物の典型的な捌き役(さばきやく)、女房役で、見た目に華やかな様式美にあふれた芝居です。

『たぬき』
 火葬場で思いがけず生き返った金兵衛が、女房だけでなく好きだった妾にも裏切られ、別の人生を歩むのが物語の骨子ですが、それを妾の兄、太鼓持の蝶作を使って見せていく芝居になっています。金兵衛の変貌に驚き、蝶作だけは事の真相を探ろうとしますが、どうにもよくわからない。ところが、最後に子どもだけがそれを見通してしまうという皮肉。大佛次郎が二世松緑に当てて書いた作品を、十七世羽左衛門、團十郎、そして三津五郎と継承しています。よくそろった配役で、七緒八くんがいい役ですね。

『勢獅子』
 一座総出で賑やかに盛り上げます。仕抜き(大勢が並ぶ中で、一人または数人が前に出て踊ること)は三津五郎、橋之助の曽我物語、芸者の踊りは扇雀と七之助、獅子の踊りは勘九郎と巳之助と、とてもうまく配分されています。特に獅子舞では、若い二人が俊敏な動きを見せて見事なひと場となりました。

『怪談乳房榎』
 納涼歌舞伎が復活したときの上演作品で、当時は七之助が「乳房榎の場」で真与太郎役でした。納涼の記念碑的作品で、すっかり人気狂言になっています。花屋の階段、大滝の殺しの場での早替りが大きな見せ場でしょう。一瞬の早替りという芸は欧米にはないと聞いています。それが、先のニューヨーク公演で受けたのは、幕外での解説が効果的だったからではないでしょうか。花道や本水の滝の中など、さまざまな場でいろいろな手法を使った早替りを見ることができ、そういう歌舞伎が培ってきた早替りの技術も含めた物語の面白さがよく出ています。

(水落潔氏談/歌舞伎美人編集)

2014年08月12日

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