ニュース

男女蔵、男寅が語る、歌舞伎座『毛抜』

男女蔵、男寅が語る、歌舞伎座『毛抜』

 

 2024年5月2日(木)から始まる歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」昼の部『毛抜』に出演の市川男女蔵と市川男寅が、公演に向けての思いを語りました。

 昨年4月の四世市川左團次の逝去から1年。今年の「團菊祭五月大歌舞伎」では、一年祭追善狂言として『毛抜』を上演します。『毛抜』は二世市川左團次が復活した左團次家に大切に受け継がれている演目。今回は、長男の男女蔵が左團次の当り役である粂寺弾正を、そして孫の男寅が錦の前を勤めます。「今回周りの方々のお力を借りて父の追善の機会をいただいたこと、本当に感謝しております。一日いちにち、一所懸命に勤めまして千穐楽を迎えたいです」と、男女蔵は引き締まった表情で述べます。

 

男女蔵、男寅が語る、歌舞伎座『毛抜』 

男の色気がにじむ粂寺弾正

 男女蔵が粂寺弾正を勤めるのは、平成16(2004)年1月の浅草公会堂「新春浅草歌舞伎」以来、2度目となります。「私はおやじさんが弾正を勤める公演にいろいろなお役で出させていただきましたが、(父の弾正に)“男の色気”というものを感じていました。こういうものはなかなか自分で出そうとしたり、お客様にアピールするものではないと思うのですが、自然に湧いてくる、匂ってくるものがありました。また、周りの方に自分は不器用だと言いながら、弾正の男らしさのなかに茶目っ気もたっぷりに演じていました」と、父・左團次の弾正を分析します。

 

 20年ぶりに自身が演じることについて、「すべてこれまでの積み重ねだと思っています。おやじさんの背中を見ていて、『毛抜』への思い入れがほかの演目とは違うと感じておりましたので、演じさせていただけるのはうれしい反面、正直“びびっている”部分もあります」と、素直な心境を口にしながらも、「なるべく心を解放して、今の男女蔵がもっているもの、すべてを出していければという思いで一所懸命勤めさせていただきます」と、真摯に語ります。

 

 四世左團次最後の弾正となった平成30(2018)年11月南座の公演でも錦の前を勤めた男寅は、「祖父は当時78歳でしたので、その年齢で弾正のような大役を演じるのは、体力的にしんどいはずですが、客席の方を向くと、(つらさを感じさせないような)色気や若さがひしひしと伝わって来ました。唯一無二の存在感をもった役者だったと思います。南座でずっと見ていたその後ろ姿を一生忘れません」と、思いを馳せます。「錦の前は次で4回目になるのですが、何度やっても難しいですし、女方の基礎が詰まってるお役だと思いますので、一つひとつ丁寧にしっかり見直しながら勤めたいです」と、意気込みます。

 

男女蔵、男寅が語る、歌舞伎座『毛抜』

 『毛抜』市川男女蔵

男女蔵、男寅が語る、歌舞伎座『毛抜』

 『毛抜』四世市川左團次

男女蔵、男寅が語る、歌舞伎座『毛抜』

 『毛抜』二世市川左團次(資料提供:松竹大谷図書館「演藝画報」明治42〈1909〉年10月号より)

 

 

四世左團次への思い

 父・四世左團次との関係を「サバサバした親子だった」と、男女蔵は振り返ります。「名前で呼んでいただくこともあまりなく、“ダメ蔵くん”と呼ばれていましたね。おもしろいのが、芸のことでも初日や中日ぐらいに言ってくれればいいものを、千穐楽が終わってから『見ていたけれども、ああした方がよかったぞ』と言うのです」。初演で弾正を勤めた際も、「せりふのテンポや型について、こちらから聞かないとおやじさんは教えてくれませんでしたね。何度も楽屋に行くわけですが、寝転がったまま『やってごらんなさい』と言い、その姿勢のまま見ていました。そのような人でしたが、自分がいなくなっても大丈夫なように、わざと突き放していたような気もします。裏の愛情を感じます」と、感慨深げに語りました。

 

 そんな四世左團次の弾正を 、男女蔵は「スーパーマン」と表現。「もちろんそこを目指す気持ちはありますが、まずは助言していただいたものをコピーすることがすごく大切だと思っています。“守・破・離”ですね。ですが、最終的にはそこで甘んじず、自然体で自分らしさを出せる歌舞伎俳優になれればと思っています」と、真剣な表情を見せました。

 

男女蔵、男寅が語る、歌舞伎座『毛抜』

 

 男寅は、「『来月このお役をやらせていただきます』と祖父の楽屋に行くと、『あの人に習いに行きなさい』とどなたかを指名してくださり、初日が開いて少し経つと、直した方がよい部分をお弟子さん経由で間接的に教えてくれました」と、四世左團次とのエピソードを明かします。「追善ができるのは皆様から祖父が愛されていた証拠です。祖父とはプライべートを一緒に過ごすことはありませんでしたが、私が共演したお兄様方からいろいろと助言をいただけるのは、祖父が後輩の方へ優しく接し、面倒見がよかったからだと思いますので、巡り巡って祖父の優しさが今私に返ってきているのではと、気づきました」と、胸の内を伝えました。

 歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」は5月2日(木)から26日(日)までの公演。チケットはチケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2024/04/19