元禄忠臣蔵(げんろくちゅうしんぐら)
昼の部
江戸城の刃傷(えどじょうのにんじょう)
元禄十四年三月十四日、浅野内匠頭(
梅玉)は江戸城松の廊下で吉良上野介に刃傷に及び、城内は騒然となります。この様子を窺おうとした戸沢下野守(
進之介)は、平川録太郎(
亀鶴)に止められてしまいます。
まもなく加藤越中守(
萬次郎)、大久保権右衛門(
桂三)、稲垣対馬守(
男女蔵)らが評議を始め、内匠頭に切腹の沙汰を下しますが、多門伝八郎(
彌十郎)はひとり反対します。しかし聞き届けられることなく、田村右京太夫(
我當)の屋敷で内匠頭は切腹することとなります。こうして庄田下総守(
由次郎)、多門、大久保たちが検死役として見守る中、内匠頭は片岡源五右衛門(
松江)と最後の対面を果たし切腹するのでした。
赤穂事件の発端から内匠頭の最期までを描いた舞台をお楽しみ下さい。
最後の大評定(さいごのだいひょうじょう)
赤穂城明け渡しの期日が迫りますが、家老の大石内蔵助(
幸四郎)はその態度を明確にしません。そんな内蔵助を妻おりく(
魁春)や嫡男松之丞(
巳之助)は心配しています。
やがて登城した内蔵助は、戸田権左衛門(
錦吾)と面会し、最後の大評定を始めます。内蔵助の前に、奥野将監(
東蔵)を始め、諸士(
家橘・右之助・高麗蔵・市蔵・松江)らが集うと、内蔵助はその心中を明かさず一同に血判を求め、全ての行動を一任して欲しいと告げます。すると一同はこれに従うと一決し、内蔵助はそのありがたさに涙を零すのでした。
一方、かつて赤穂藩に仕えていた井関徳兵衛(
歌六)と、子息の紋左衛門(
種太郎)は、藩士と行動を共にしようとしますが許されません。意気消沈する親子は命を断ちますが、内蔵助は死にゆく旧友の徳兵衛に初めて仇討ちの決意を明かします。
混迷する赤穂藩の様子と内蔵助の苦衷、そして徳兵衛の最期を描いた見どころ多い一篇です。
御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)
次期将軍の徳川綱豊(
仁左衛門)は、寵愛するお喜世(
芝雀)や、江島(
秀太郎)、浦尾(
萬次郎)、お古宇(
宗之助)たちと浜遊びに興じ、政に関心がないよう装っています。しかし学問の師である新井勘解由(
富十郎)には、赤穂の浪人たちに仇討ちをさせてやりたいとその心中を明かします。
一方、お喜世の兄で、赤穂の浪人である富森助右衛門(
染五郎)が浜遊びの見物を願い出るので、綱豊はこれを許し、仇討ちの意志があるかどうかを探ります。やがて助右衛門は、今日の宴に招かれた吉良を襲おうとしますが、綱豊がこれを防ぎ、その軽率な振る舞いを叱り、諭すのでした。
綱豊と助右衛門の台詞の応酬が眼目となっている名作をご覧頂きます。
夜の部
南部坂雪の別れ(なんぶざかゆきのわかれ)
大石内蔵助(
團十郎)は、仇討ちのために江戸へ出立しましたが脱落する者も多く、堀部弥兵衛(
家橘)たちは、これを憂慮しています。
一方、内匠頭の未亡人瑤泉院の住む屋敷では、落合与右衛門(
東蔵)を始め、腰元のおうめ(
芝雀)や夜雨(
高麗蔵)、みゆき(
宗之助)たちが、内蔵助の動向を噂しています。ここへ内蔵助が入来し、瑤泉院(
芝翫)と対面しますが、内蔵助はその真意を明かさないので、瑤泉院は怒って座を立ってしまいます。そして内蔵助は、和歌を認めた冊子を与右衛門に託すのでした。
内蔵助が門から出ると、羽倉斎宮(
我當)が通りかかり、いつまでも仇討ちをしない内蔵助を批難して立ち去って行きます。そこへ冊子の中身から内蔵助の真意を悟った瑤泉院が現れ、先ほどの非礼を詫びます。こうして内蔵助は、寺坂吉右衛門(
松江)と共に雪の南部坂から去って行きます。
決意を胸に秘めた内蔵助と瑤泉院の心の交流を描いた名舞台をお楽しみ下さい。
仙石屋敷(せんごくやしき)
本懐を遂げた大石内蔵助(
仁左衛門)は、吉田忠左衛門(
彌十郎)、磯貝十郎左衛門(
染五郎)に口上書を持たせて、仙石伯耆守の屋敷へ向かわせ、用人の桑名武右衛門(
錦吾)に手渡します。まもなく仙石伯耆守(
梅玉)が現れると、忠左衛門たちに仇討ちの仔細を尋ね、聞き取り書きを記すと、幕閣にこれを知らすべく登城します。
その日の夜、仙石屋敷に内蔵助を始めとした赤穂浪士(
家橘・右之助・高麗蔵・市蔵・男女蔵・亀鶴・巳之助)が集い、伯耆守や鈴木源五右衛門(
由次郎)の尋問に答えていきます。やがて浪士たちは諸家へお預けとなり、伯耆守は内蔵助の働きを褒め称えて、これを見送るのでした。
仙石伯耆守の詰め開きから、思慮深い内蔵助の姿を描き出す名篇です。
大石最後の一日(おおいしさいごのいちにち)
細川家にお預けとなった大石内蔵助(
幸四郎)は、その厚遇を他の浪士(
家橘・彌十郎・男女蔵)たちと感じ入っています。おりしも細川内記(
米吉)が内蔵助との対面を望み、その言葉に感銘を受けます。
やがて浪士たちの世話をする堀内伝右衛門(
歌六)が、内蔵助におみの(
福助)という娘を引き合わせます。実はおみのは、磯貝十郎左衛門(
染五郎)と二世の約束を交わしており、十郎左衛門の心を確かめにやって来たのでした。そしておみのは、十郎左衛門がおみのの琴の爪を肌身離さず持っていることを知り、喜びにうち震えます。
そこへ上使として荒木十左衛門(
東蔵)、久永内記(
桂三)が入来し、赤穂浪士に切腹の沙汰が下ったことを伝えます。かくして諸士たちを見送った内蔵助は、満足気に切腹の場所へと向かいます。
初一念を貫く内蔵助の姿と、十郎左衛門とおみのの恋がその見どころで、真山青果の大作の掉尾を飾るにふさわしい一幕を上演します。