歌舞伎座
歌舞伎座さよなら公演
御名残三月大歌舞伎
平成22年3月2日(火)~28日(日)
第一部
菅原伝授手習鑑
一、加茂堤(かもづつみ)
帝の弟斎世親王の舎人である桜丸(梅玉)は、妻の八重(時蔵)の手助けを得て、加茂明神に参詣した斎世親王(友右衛門)と、菅丞相の養女の苅屋姫(孝太郎)を牛車の中で逢引させます。しかしこれを疑った藤原時平方の三善清行(秀調)が詮議に現れたので、斎世親王と苅屋姫は落ち延びてしまいます。桜丸は牛車を八重に任せると、ふたりの後を追うのでした。『菅原伝授手習鑑』の、後の全ての事件の発端となる一幕です。二、楼門五三桐(さんもんごさんのきり)
天下の大盗賊石川五右衛門(吉右衛門)は南禅寺山門の楼上に身を置いて煙管をくゆらせ、悠然と桜花爛漫たる都の景色を眺めあかしています。そこへ一羽の白鷹が血染めの遺書をくわえて飛んできます。真柴久吉に滅ぼされた此村大炊之助実は大明国の宋蘇の遺書で、この遺書から五右衛門が実は宋蘇の遺児であること、宋蘇が久吉に謀られて命を落としたこと、大恩ある武智光秀も久吉に滅ぼされたことが判ります。その時、久吉の家臣右忠太(歌六)と左忠太(歌昇)が五右衛門に襲いかかります。しかも、山門の下には巡礼姿の真柴久吉(菊五郎)が。互いの姿に気づいた五右衛門と久吉は楼門の上下で対峙するのでした。絢爛たる色彩と様式美に溢れた、醍醐味ある一幕をご堪能ください。
三、女暫(おんなしばらく)
源平の合戦で功を立てた蒲冠者範頼(我當)は、轟坊震斎(松緑)や女鯰若菜(菊之助)、猪俣平六(團蔵)、武蔵九郎(権十郎)、江田源三(彌十郎)、東条八郎(市蔵)ら家臣と北野天満宮へ詣でます。居合せた清水冠者義高(錦之助)、その許嫁の紅梅姫(梅枝)、木曽太郎(松江)、駒若丸(萬太郎)、局唐糸(家橘)、家老根井行親(寿猿)ら忠義の人達は、権勢を誇る範頼をたしなめますが、範頼は成田五郎(左團次)に命じ、義高らの命を奪おうとします。その時「しばらく」と呼び止めたのは、大力無双の巴御前(玉三郎)。巴御前は勇ましくつらねを述べ立て(茶後見=隼人)義高らを救い、紛失していた名刀倶利伽羅丸を、自らの計略と手塚太郎(進之介)の働きで取戻します。そして大太刀で範頼の仕丁を退治すると、舞台番の辰次(吉右衛門)に六方を習い、恥ずかしそうに引上げていくのでした。荒事の『暫』を女方が演じる趣向の、華やかな舞台をお楽しみ下さい。
第二部
菅原伝授手習鑑
一、筆法伝授(ひっぽうでんじゅ)
後の世のため筆法を伝授せよとの勅諚を賜った菅丞相(仁左衛門)は、七日間館に籠って伝授の準備を進めています。数多い弟子の中でも古株の左中弁希世(東蔵)は伝授されるのは自分と決め付け、局の水無瀬(吉之丞)を仲立ちに丞相に清書を見てもらいますが、腰元の勝野(新悟)に悪戯するなど、その器量ではありません。そこへ武部源蔵(梅玉)が女房戸浪(芝雀)を伴い訪れます。幼い頃から菅家に仕えていた源蔵は、四年前不義の科で勘当されましたが、源蔵をおいて他になしと、丞相が館へ召し出したのです。園生の前(魁春)にひれ伏す源蔵夫婦でしたが、やがて源蔵一人が御学問所へ召されます。希世の邪魔だてもものともせず、見事に書き上げたその手跡に丞相は満足し、源蔵に伝授の一巻を与えます。
そこへ内裏から参内の勅諚。丞相は解せぬまま支度を調えますが、冠が落ちたことから不吉を予感します。館を離れる源蔵夫婦と入替りに変事を伝えに来たのは、菅家の舎人梅王丸(歌昇)。間もなく丞相は、三善清行(秀調)や荒島主税(松江)ら時平方に囲まれて戻って来るのでした。『道明寺』につながる悲劇の始まりとなる一幕です。
二、弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)
雪の下の浜松屋へ美しい武家の娘と供侍がやってきて、婚礼の品物の品定めを始めますが、娘が万引きをしたと思った番頭は、娘の額に傷を負わせてしまいます。ところが娘の懐から出てきたのは他の店の品。店の若旦那、浜松屋宗之助(菊之助)が詫びても、来合わせた鳶頭の清次(團蔵)が仲立ちをしてもおさまらず、店の主人浜松屋幸兵衛(東蔵)は供侍に百両を渡します。しかし奥から玉島逸当という侍が現れ、娘が男であると見顕します。実は娘は世間で評判の盗賊、白浪五人男の弁天小僧菊之助(菊五郎)で、供侍は同じく南郷力丸(吉右衛門)でした。堂々と正体を明かして二人は帰っていきますが、この逸当こそ盗賊の首領、日本駄右衛門(幸四郎)で、先ほどの騒ぎも浜松屋の金を全て奪い取るための策略でした。悪事を重ね、耳目を集めた五人男でしたが、遂に追手が迫ります。覚悟を極め、稲瀬川の土手に勢揃いした駄右衛門、弁天小僧、南郷、赤星十三郎(梅玉)、忠信利平(左團次)は、後日の再会を約束して別れ別れに落ち延びていくのでした。おなじみの七五調の名台詞も満載の、河竹黙阿弥の代表作を上演します。
第三部
菅原伝授手習鑑
一、道明寺(どうみょうじ)
藤原時平の讒言で、筑紫の大宰府に流罪となった菅丞相(仁左衛門)。船出を待つ間に立ち寄った伯母の覚寿(玉三郎)の館に、丞相の養女で覚寿の実の娘の苅屋姫(孝太郎)が匿われています。姉の立田の前(秀太郎)は、丞相と苅屋姫親子を対面させようとしますが、覚寿は丞相失脚の原因となった苅屋姫を杖で打ちすえます。その時丞相の声が折檻を留めますが、そこに丞相の姿はなく、丞相自らが彫った丞相の木像があるばかり。一方、時平の意を受けた立田の前の夫、宿禰太郎(彌十郎)とその父、土師兵衛(歌六)は、丞相出立の合図である一番鶏を鳴かせて贋の迎い弥藤次(市蔵)を遣わし、丞相を暗殺させようと謀ります。更に、それを知られた立田の前を殺害して、奴宅内(錦之助)を犯人に仕立上げますが、覚寿がその真相を見抜きます。そこへ丞相を護送する判官代輝国(我當)が入来します。不審に思う覚寿でしたが、先程出立した筈の丞相が館の内より現れたのでした。
十三代目片岡仁左衛門十七回忌と十四代目守田勘弥三十七回忌の追善狂言として、菅丞相を当代仁左衛門が、覚寿を玉三郎が演じ、二人の名優を偲ぶ重厚な一幕です。
