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『壽三升景清』が大谷竹次郎賞受賞
1月27日(火)、優れた新作歌舞伎の脚本に与えられる大谷竹次郎賞の授賞式が行われ、受賞作品『壽三升景清(ことほいでみますかげきよ)』の脚本を担ったふたりに、第43回平成26年度大谷竹次郎賞が贈呈されました。
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松竹創業者のひとりである大谷竹次郎の名を冠した賞が贈られたのは、昨年1月、 新橋演舞場「初春花形歌舞伎」で初演された『壽三升景清』です。歌舞伎十八番『関羽』『鎌髭』『景清』『解脱』の4演目を、新たな構想でまとめ上げた『壽三升景清』は、通し狂言として上演され、9月には 京都四條南座「九月花形歌舞伎」で再演されました。
はじめに選考委員の水落潔氏より、「新作歌舞伎が豊かだった昨年、5つの候補作が上がりましたが、受賞作は、歌舞伎十八番の景清が主人公になっている4作品を一つにまとめ、新しい景清像を描くという着想が非凡だったと思います」と、審査経過が報告されました。
「一つにまとめると言っても簡単なことではありません。まず、景清が複雑な性格を持った異色の人物であること。次に、二代目と四代目、芸質の異なる二人の團十郎が初演した作品を一つにしたこと。それを今の観客に理解される作品にまとめ上げたこと。さらには、正月の華やかさや視覚的な楽しさもある作品に完成させたこと。歌舞伎に通じ、俳優を活かし、観客を喜ばせるという難しい条件をクリアしたことが評価されての受賞です」
脚本は川崎哲男氏と松岡亮氏が執筆。「海老蔵さんから景清の4作品で一つの新しい作品をと、以前から相談を受けておりました。一昨年5月、『鎌髭(かまひげ)』を南座で復活上演したとき、海老蔵さんが気に入って、振付・演出の(藤間)勘十郎さんも熱を入れてくださり、4作品が一つになって世に出ることもあるかなと思うようになりました。それが2回も上演され、本当にうれしい」と川崎氏。
続けて、「今回、私のしたことは、歌舞伎十八番の世界が景清の色合いに見えるようにということです。あとは、松岡さんの力です」。
その松岡氏は、「4つの別々の作品を一つの通し狂言に構成することに苦しみました。斬新なアイディアを次々に出してくる海老蔵さん、それを具体化するための優れた演出力をお持ちの振付・演出の勘十郎さん、主演と演出のおふたりの力があったからこそ、栄えあるこの賞を受賞できたと思っております。海老蔵さんとは同じ昭和52年生まれで、勘十郎さん、さらには製作プロデューサーもやはり同年代の三十代。これからの歌舞伎を背負っていかなければいけない世代で創り出したこの作品が評価されたことは、大変うれしく、またありがたいことと思います」と、感謝の気持ちを表しました。
選考委員からは、「『解脱』の表現の発想がうまい。俳優や切り口を変えた作品も観たい」「いいせりふを選択している」「難しい言葉がうまく使われ、歌舞伎を守っていく力を感じた」といった、構成力や表現力への高い評価が聞かれました。また、資料もほとんどない歌舞伎十八番を題材にすることが、ほぼ創作に近いものであったことに対しては、「七代目團十郎も同じように何もない中、悪戦苦闘して復活上演していたのですから」と、歴史に名を残す歌舞伎俳優を引き合いに出してその労がねぎらわれました。
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昭和47(1962)年から始まった大谷竹次郎賞は、「歌舞伎俳優によって上演された新作歌舞伎の脚本を対象とし、娯楽性に富んだ優れた歌舞伎脚本」であることを基準に選考され、大谷竹次郎の誕生日である12月13日に受賞作が発表されています。作品は「何度も板(舞台)にかけて、こなれてよくなる」という大谷の言葉を引き、「新作はできるだけ再演を」と訴えた平岩弓枝選考委員には、出席者が大きく賛同しました。
そして最後に「古典の継承と新しい作品をつくっていくことは、やはり歌舞伎の伝承に必要不可欠。次々に作品をつくり出していきたい」と、安孫子正松竹株式会社副社長が総括し、授賞式は終了しました。