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熱気あふれた「歌舞伎 狂言方ワークショップ」
5月15日(日)、大阪松竹座で「松竹 歌舞伎 狂言方ワークショップ」が行われました。
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松竹株式会社では、関西を拠点とした裏方の職種、狂言方のワークショップを開催しました。応募者から選ばれた32名が参加され、歌舞伎を支える裏方の仕事が、実演、体験を交えて紹介されました。
講師として登場したのは狂言方の竹内弘さんと、堀本昭浩さん。さらに、俳優の片岡松十郎さんの協力を得て、狂言方の世界について現場の生の声を直接聞くことができました。
何十年やっても正解がわからない
現在活躍している狂言方は4名。狂言方は、各公演に合わせ、大道具、小道具など舞台装置の点検をはじめ、舞台上のあらゆるものに目を配り、裏方の責任を持つ職種として、舞台を取り仕切ります。また、柝を打つことで舞台進行を勤めながら、仕掛けの考案や操作に携わり、舞台上で起こるトラブルにも対応するオールマイティな存在です。
昭和44(1969)年に狂言方になった竹内さん。「狂言方の仕事に就いて何十年やっていても、一人前になったという実感がない。正解がまだわからない」と、伝統芸能に従事する難しさを話しながらも、「お客様に自分の柝を聞かせること、自分の柝で幕を開けることを、狂言方としてのやりがいと思っている」と、大変さのなかにある喜びも語りました。
狂言方であった父親の影響もあり、狂言方の仕事を次代につなげたいとの思いから、平成2(1990)年にこの世界に入った堀本さん。俳優からの注文に対し、 「受けた仕事の現場では、100パーセント自分の持っているものを出し切って、取り組むようにしている。結果、俳優から労いの言葉をかけてもらったとき、この仕事の醍醐味を感じるし、次に向けての活力となる瞬間でもある」と、仕事の取り組み方について話しました。
二人が口をそろえたのは、「狂言方の仕事は、舞台のすべてに責任を負うので、細部のチェックに非常に神経を使う。また、俳優とスタッフの“クッション役”の側面もある」と、現場で求められる判断の重要性や架け橋役を担う仕事の厳しさについてです。毎日の芝居に関わる裏方こその言葉を、受講者の皆さんは真剣に聞いていました。
受講者も狂言方の仕事に挑戦
仕掛けの考案や操作については、映像や実際に使われる大道具を交えながら、『ヤマトタケル』の走水の畳流しの仕掛け、『怪談乳房榎』の仏壇の早替りの仕掛け、『沼津』の傍示杭などが、具体的に話されました。受講者は興味津々、関心の高さがうかがえました。
舞台上のあらゆることに応える万能選手の狂言方。実際の仕事を体験する時間も設けられました。上方歌舞伎の裏方を支える立場の狂言方は、『封印切』で忠兵衛が使用する小判を、包み金にするのも仕事の一つです。小道具の小判をどのように半紙で包むのか、真剣な面持ちで堀本さんの手元を見ながら、小判包みに挑戦しました。
俳優の動きに合わせて柝とツケを打つ
ワークショップの後半では、舞台の進行にかかせない、時や開幕、閉幕などを知らせる「柝」の役目についての話もありました。楽屋内で、幕が開くまでの時間を知らせる「着到止め」「二丁」「廻り」、定式幕を開ける柝、道具転換中の柝、そして幕切れの柝と、柝の種類を紹介。
また、ツケ打ちも、関西では狂言方が勤める場合もあり、一人で柝、ツケと両方打つ技術を持ちます。松十郎さんの所作に合わせて打つツケの音の違いにも、皆さん熱心に耳を傾けていました。
そして、柝とツケのグループに分かれ、竹内さんの「柝」と、堀本さんの「ツケ」の実演をお手本に、受講者の皆さんも実際に柝とツケを打つ練習をしました。練習後は、松十郎さんの極まりに合わせ、柝とツケの発表会が行われましたが、普段できない体験ゆえに、俳優の間に合わせる大変さを身を持って味わうことになりました。
次代につないでいきたい狂言方の仕事
松十郎さんからも、「狂言方さんにはお世話になっている、狂言方なくしては、お芝居が成り立たない」との思いも明かされ、今回のワークショップを通し、狂言方が舞台にはかかせない役割を担っていることが、受講者の皆さんによく伝わったようでした。ワークショップの終盤には質問も多く出て、狂言方の多岐にわたる仕事について、返ってくる盛りだくさんの答えに、皆さんとても熱心に聞き入っていました。
今回のワークショップには、次代の狂言方を担う若者が、門戸をたたくきっかけになればという願いもあり、これから狂言方を志す人に求める資質として堀本さんは、「芝居が好きであることが大事!」と語っていました。