歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



足袋づくりの現場拝見

大野屋總本店の創業は、約230年前の江戸時代安永年間。ちょうど『伽羅先代萩』が初演された頃にあたる。福島康雄さんは、河東節(かとうぶし)をたしなまれていて、『助六』の舞台でのどを披露されているそうだ。

 洋の東西を問わず、おしゃれは足もとが要といわれます。足袋はどれも同じように見えるかもしれませんが、つま先や底の形、布地、縫製など、店によって千差万別。姿のよさ、履き心地にこだわる各界の玄人が気に入った店であつらえるには、それなりの理由があるのです。

 今回訪問したのは、銀座の喧噪から離れた新富町にある足袋の老舗・大野屋總本店。丁寧な仕事と確かな技を守り伝えるこの店は歌舞伎界からの信頼も篤く、歌舞伎座をはじめ、全国の劇場で上演される歌舞伎の足袋の多くを作っています。現在六代目として店をまとめる福島康雄さんに、歌舞伎の足袋についてうかがいました。

助六の足袋。写真でも分かるように足首を覆う部分が浅くなっている。足を大きく見せる効果も。

店には、あまたの歌舞伎俳優の足袋の型紙があった。こちらは、中村鷹之資君の型紙。成長期なので型紙は、どんどん増える。型紙を見ながら、「大きくなったなぁ」と感慨にふけることもあるそうだ。

「女方さんはほとんど白足袋ですが、立役さんはオーソドックスな白足袋のほか、色や形のバリエーションがいろいろあります。例えば、助六の足袋は、黄色の2枚こはぜ(※1)。足首を覆う部分が浅い独特の形をしていますが、それが粋とされているんですね。

 『助六』では、ご存知のように舞台上にたくさんの女方さんが登場しますが、実は足袋の注文は少ないんですよ(笑)というのも、花魁は素足が粋とされていて足袋をはかないからなんです。これも独特の美学ですね。

 それから、長く座っていなければならない役柄の場合には、足がしびれないように少し緩めのサイズに作ったりもしますね」



こはぜ(※1):足袋のかかと側の合わせ目を留めるための爪形をした金具。4枚こはぜが一般的。

歌舞伎の逸品

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