歌舞伎いろは

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世界に類をみない緞帳王国・日本

脇田常弘さん。この道30年のベテラン。「緞帳は特注品のため毎回新しい課題が出てきます。それが難しいところであり、おもしろいところでもあります」

緞帳の表面は、近くで見ると想像以上にダイナミック。脇田さんによると、メインで見せたい部分は遠くからでも強くはっきり見えるように、粗く織って表現するそうだ(※これは、川島織物セルコンの製作現場にあった、サンプル用の緞帳生地)。

 
◆ 定式幕と緞帳
ご存じのように歌舞伎では、通常は舞台と客席を区切る幕として3色縦縞の定式幕を用いています。これは引き幕と言って横方向に開閉するもので、江戸時代に幕府から認可された劇場であることの証でもありました。一方、緞帳は原則として、上下方向に開閉するものを指します(※)。こちらは簡素な巻き上げ式の幕で、非認可の芝居小屋が引き幕の代わりに用いていたものです。
※引き幕形式の緞帳もある。これは、「引き割り緞帳」と呼ばれる。

 歌舞伎座をはじめ演劇ホールや学校の講堂、旅館の宴会場に至るまで、日本の劇場や舞台は規模の大小を問わず、どこでも立派な緞帳(どんちょう)がかかっています。巨大な織物を作り上げるには高い技術と時間が必要ですし、当然お金もかかります。実は、舞台と客席を仕切る単なる幕にこれほど凝るのは、日本だけだそうです。緞帳はまさしく日本文化なのです。

 今回は、「緞帳の川島」と呼び慣わされるほど織りの技術で高く評価されている株式会社川島織物セルコンを訪問しました。「川島」というと、着物がお好きな方は高級帯のほうがピンとくるかもしれませんね。緞帳や帯など手作業で織るものは、京都市街から少し北上した静かな環境にある大きな建物の中で作られていました。さっそく制作現場を取り仕切られている脇田常弘さんからお話をうかがいました。

 「緞帳は直接布地に絵を描いたり、刺繍を施したりして作られていましたが、昭和26年に川島織物が綴織(つづれおり)の手法を採り入れて巨大な織物を作ってから、綴織の緞帳が定着していきました。歌舞伎に関連した劇場では、歌舞伎座や南座、新橋演舞場、大阪松竹座、国立劇場などにこれまで緞帳を納めさせていただいています」

新橋演舞場には、2010年3月現在、4枚の緞帳がかかっているが、そのうち3枚を川島織物セルコンが制作した。
左から「波涛扇面散」(原画・加山又造 提供・キッコーマン株式会社)、「舞踊図」(原画・サントリー美術館蔵 提供・サントリー株式会社)、「旭日瑞翔」(原画・松尾敏男 提供・日産自動車株式会社)

歌舞伎の逸品

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