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鴈治郎、扇雀が語る南座『曽根崎心中』

鴈治郎、扇雀が語る南座『曽根崎心中』

 

 12月2日(木)から始まる南座「當る寅歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎」第一部に出演する中村鴈治郎、中村扇雀が、公演に向けての思いを語りました。

 昨年11月の四世坂田藤十郎の逝去から1年。今年の南座顔見世興行では、三回忌追善狂言として、藤十郎が生前に当り役であるお初を1400回以上勤めた『曽根崎心中』を上演します。

 

父が愛した作品で追善を

 今回、徳兵衛を勤める鴈治郎とお初を勤める扇雀。「父の追善をこうしてさせていただけることはとてもありがたく、うれしいこと」と、口をそろえます。「昨年もそうでしたが、今年も、父のまねきがないことを実感するのでしょう」と、しみじみと語り始めた鴈治郎は、こうして藤十郎の追善狂言に出演することについて、「私たちも、一つの責任を負っていくことの表れだと感じております」と、じっくりと思いを噛みしめました。

 

 「この『曽根崎心中』のお初という役は、皆様ご承知の通り、父が生涯で一番愛した役でした」と扇雀。上演時間が長いため、コロナ禍での上演は難しいと思っていたと言い、「なかなか演じる機会がなかったので正直予期していませんでしたが、お話をいただき、二つ返事でお願いします、とお役をお受けしました。60歳の最後に、このお初を演じる機会をいただいたというのは、なにか運命のようで、自分の再出発の演目のような気がいたします」と、言葉に力を込めました。

 

鴈治郎、扇雀が語る南座『曽根崎心中』

 

坂田藤十郎という人

 藤十郎が演じるお初の相手役として、徳兵衛を何度も勤めてきた鴈治郎。最後に博多座で共演した際に「舞台の上で握手をしたことを急に思い出しましたね」と、懐かしみます。「父は、自分がその役になりきれば、それが演技に表れてくるという考え方を、目の前で僕らにも見せてくれました。だから毎回新鮮であっていいと。同じ役を次に演じるときにがらっと変わることもあって、でもそれがすべて、その役として成立していました。」

 

 これまで2度お初を勤めた扇雀は、「お初に関して具体的に父から細かいことを教わることはなく、裾の捌き方くらいでした。とにかく先輩の芝居を見ろ、それだけはいつも言っていましたね」と振り返ります。「父がいなくなったことで、自分自身が変わることはないけれど、父が坂田藤十郎の名を復活させたことの意義や、父の思いを受け継いでいきたいという気持ちが芽生えました」と、真剣な表情を見せました。

 

 また、藤十郎について、「絶対に揺らがない人。また、絶対に人と同じことをやらないところがありましたし、10年まったく同じことをやっても何にもならないという考えを体現していました」と鴈治郎が語ると、扇雀は、「ひと言で言うと本当の負けず嫌い。誰に何を言われても、この役だったらここはこうする、とその一点。そこに自分の個人的な思考はなくて、役として考え、役にどっぷり入っていく。その姿勢は、父から一番学んだことだと思いますね」と続けました。

 

鴈治郎、扇雀が語る南座『曽根崎心中』

 

兄弟で勤める『曽根崎心中』

 演じる徳兵衛について、初めの頃は「祖父(二世鴈治郎)に近づきたくても全然できなくて」と、葛藤があったことを明かす鴈治郎。ロンドンなどでの舞台の経験を経て、意識せずに役に入れるようになったと言い、「生涯通して演じる役と感じています。父が常に新しい気持ちで演じていたように、今回5年ぶりに、どういう気持ちで自分が徳兵衛をできるかが楽しみです。たとえば生玉神社境内からの引っ込みなど、自分のなかでも何か新しく消化してやってみたい、と考えていることもあります」。

 

 「追善といっても、父がつくってきた通りのことをやるのではなく、やはり自分で工夫をして、役をゼロからつくっていくというのが、上方歌舞伎のつくり方だと思うのです」、そう話すのは扇雀。「今回の上演に向けて、もう一度、近松の原作の読み直しから始めました。僕は、心中場は大ハッピーエンド、恋愛が成就した二人、というように考えておりますので、兄とも相談してつくりあげていけたら」と、構想を熱く語ります。

 

 「皆様にも、これは『曽根崎心中』ですが、また違うものとして新鮮に映り、話題になってくれればうれしいですね」(鴈治郎)、「父の『曽根崎心中』を何度も観たお客様にも、新しい発見をしていただけることが、実は父に対する一番の追善でないでしょうか」(扇雀)と、それぞれの言葉に、兄弟で力を合わせ、上方の俳優としての精神や、父の姿勢を受け継いでいこうという気概を込めました。

 南座「吉例顔見世興行」は12月2日(木)から23日(木)までの公演。チケットはチケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2021/11/25