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南座「坂東玉三郎 特別公演」初日開幕

 2022年8月2日(火)、南座で「坂東玉三郎 特別公演」が初日を迎えました。

 最初の演目は、鶴屋南北による怪談の名作『東海道四谷怪談』です。令和3(2021)年に、歌舞伎座「九月大歌舞伎」で、38年ぶりとなるお岩を演じた坂東玉三郎。今回南座で相手の民谷伊右衛門を勤めるのは、片岡愛之助です。

 

 産後の肥立ちが悪く臥せっているお岩は、松之助勤める按摩の宅悦の世話を受けて暮らしています。そんな様子を疎ましそうに見ながら夫の伊右衛門は、盗みをはたらいた喜多村緑郎勤める小仏小平を捕まえ、執拗に責め立てます。貧しい暮らしのなかで悪態をつきながらも、時折色気がにじむ色悪を愛之助が演じて見せます。そこへ、隣の伊藤家の乳母、歌女之丞勤めるおまきから、お岩に見舞いとして薬が届けられます。何も知らず、丁寧に礼を言いながら飲むお岩。するとたちまち苦しみ始めるお岩の姿に、客席は緊張に包まれました。

 

 伊右衛門が見舞いの礼にと訪れた伊藤家では、河合雪之丞勤めるお弓が主の伊藤喜兵衛とともに手厚くもてなします。それも、孫であるお梅が伊右衛門と、夫婦になってほしいという恐ろしい思惑のため。お岩が飲んだ薬が、毒薬であることを知ると、欲にかられた伊右衛門は覚悟を決め、縁談を快諾します。欲望の陰で人の命が失われることもいとわない、冷酷な伊藤家と伊右衛門の姿に、人間の欲の恐ろしさを感じさせる場面となりました。

 

 すべてを知ったお岩は、裏切った伊右衛門と伊藤家の元へ行こうと身支度を始めます。美しかった自分の変わり果てた姿を見つめながら、梳くたびに滴り落ちる血と髪の毛。玉三郎が静けさのなかに、お岩の声にならない悲哀を見事に演じて見せると、観客も手に汗を握ってその様子を見守りました。一方の伊右衛門は、何事もなかったかのように、花嫁姿のお梅を迎え入れるもつかの間。お岩の怨霊が次々と伊右衛門を追い詰めます。女の執念を知った伊右衛門は…。怪談物でありながら、人間の業と、そして女の哀れが丁寧に描かれた作品に、客席から大きな拍手が起こりました。 

 

 続いて、一転して華やかな舞踊『元禄花見踊』です。江戸の桜の名所、上野の山を舞台に、玉三郎、上村吉弥、雪之丞らが勤める元禄の女たちや、愛之助、緑郎らが勤める元禄の男たちが賑やかに花見を楽しんでいる様子が、軽快な長唄と鳴物にのって描かれます。それぞれの衣裳、鬘も艶やかに、元禄絵巻がそのまま舞台に現れたような様子に、客席は華やかな雰囲気に包まれました。

 南座「坂東玉三郎 特別公演」は8月28日(日)までの公演。チケットはチケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2022/08/04