ニュース

松緑、左近が語る、歌舞伎座『達陀』

松緑、左近が語る、歌舞伎座『達陀』

 

 2023年5月2日(火)に開幕した歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」夜の部『達陀(だったん)』に出演の尾上松緑、尾上左近が公演に向けての思いを語りました。

旗を立てられたゴールに向かって

 「お水取り」と言われる奈良・東大寺二月堂の修二会(しゅにえ)の行を舞踊化したいという二世尾上松緑の発案で、萩原雪夫作、藤間勘齋(二世松緑)振付により、昭和42(1967)年2月に歌舞伎座で初演された『達陀』。奈良時代から一度も途絶えることなく1200年以上続く行に、青衣(しょうえ)の女人伝説を巧みに取り入れた四部構成で、前半は静的な舞踊、後半は梵語で「火の苦行」を意味する達陀の激しい行法を群舞で展開する、幻想的でダイナミックな舞踊劇です。

 

松緑、左近が語る、歌舞伎座『達陀』

 

 今回の公演で僧集慶を勤める松緑は、「一番大事にしているのは、東大寺のお水取りの行を崩さないということ。舞台に乗せる時点で(実際の行とは)違いは出てしまうので、集慶だけでなく、練行衆、堂童子、松明の人間など、皆がもつゴールの先に、それ以上の違いはなるべく誤差も出さないように、ということを目指すべき旗として立てておきたい。お水取りの行をリスペクトしたうえで、皆が共通の意識をもって、その旗を立てられたゴールに向かっていくと、1日1日研ぎ澄まされたものになるのではないか」と、真摯に語ります。

 

 「そのなかでも、フィクションのドラマティックな部分として成立するのが、青衣の女人と集慶の思い出の場面。今回はその思い出の部分の若い頃の集慶(幻想の集慶)を、息子の左近が勤めて、青衣の女人を(中村)梅枝さんに勤めていただきます。白、黒、グレーというモノクロのなかで進み、炎の赤だけがカラーとして入るような、色彩的にシックにまとまった作品ですから、若い頃の集慶の若々しい色が出ることで、気分も一つ変わるのではないかと、祖父(二世松緑)が初期にやっていた演出に戻させていただいた」と、その際に松緑の父である初代辰之助(三世松緑)が演じた役で、今回左近が勤める幻想の集慶について触れます。

 

松緑、左近が語る、歌舞伎座『達陀』

 

左近は、「梅枝のお兄さんの胸を借りてやらせていただきたいです。そして、幻想の集慶の踊りと青衣の女人の踊りは、『達陀』の舞台のなかで、唯一人間の欲を描いている部分だと思うので、ただ体を動かすのではなく心を大事にし、集慶の心情を踊りで表現できたら」と、真剣な眼差しで語ります。今回、左近はクライマックスの総踊りにも出演する予定で、自信について尋ねられると、「機能美を追究した群舞ですから、舞台の一つのパーツとなれるように努めなければいけない。自信があるかないかではなく、なんとかしなければならないです」と、言葉に熱が入ります。

 

松緑、左近が語る、歌舞伎座『達陀』

 

歌舞伎にとっても藤間流にとっても大切な作品

 ほかに例を見ない40人前後という大人数での群舞を見せる『達陀』において、集慶という役は、「現場監督的な感覚が非常に強い。いざ舞台に上がって稽古をしたときには、僕が2階、3階の客席から見て、綺麗にピラミッド型になっているか、(出演者の)身長や、体格のバランスも考え、対称になっているかということにも気を遣わなければいけない」と、松緑は明かします。

 

 『達陀』は、「歌舞伎にとっても(藤間勘右衞門として家元をつとめる)藤間流にとっても、大切なものですから、歌舞伎に残るのと同様に藤間流にも残していかなければならない作品だと思いますので、ゆくゆくは(左近に)引き継いでいってもらいたいものの一つです。今観ても新しいもののように感じる作品ではありますが、20年、30年経った後に観ていただいても、古びている、錆びついていると思われないように磨いていくのが我々世代の仕事であり、次の世代へバトンを渡す術なのかなと思います」と、真摯に思いを語りました。

 

松緑、左近が語る、歌舞伎座『達陀』

 

 左近は、「僕にとって、うちにとって大切なものだと、すでに感じています。今後集慶をできるような役者にならなければいけないと思いますが、表のことはもちろん、裏まで目を回せていないと、集慶をやる役者ではないということだと思いますので、今月は自分の役を精一杯勤めながら父を見て勉強できれば」と意気込みました。

 歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」は、27日(土)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2023/05/03