昼の部
松竹梅(しょうちくばい)
二〇〇七年の歌舞伎座は、初春を寿ぐ祝儀舞踊の新作で幕をあけます。厳しい冬の寒さに耐えることで「歳寒三友」と呼ばれる松竹梅は、めでたさの象徴。「松の巻」を
梅玉と
橋之助、「竹の巻」を
歌昇、
信二郎、
松江、
高麗蔵、「梅の巻」を
魁春、
芝雀、
孝太郎と、巻ごとに装置も替わる三段返しで、華麗な舞踊絵巻をご覧いただきます。
平家女護島 俊寛(しゅんかん)
平家討伐の陰謀を密告され、絶海の孤島鬼界ヶ島に流された俊寛僧都(
吉右衛門)、丹波少将成経(
東蔵)、平判官康頼(
歌昇)。三年の月日が経ったある日、成経が島の娘、千鳥(
福助)を妻にめとったことを報告に訪れ、一同は喜びに包まれます。折しも都から赦免船が着岸し、上使の瀬尾太郎兼康(
段四郎)が成経と康頼の赦免を告げます。俊寛は自分の名だけがないことに落胆しますが、もうひとりの上使、丹左衛門尉基康(
富十郎)から赦免が告げられ、晴れて三人揃って乗船へ。が、成経の妻千鳥は、置き去りにされてしまいます。悲嘆に暮れる千鳥を見て、俊寛は自分が千鳥に代わって島に残ることを決意します。流人としての生活に疲弊し切ったうえ、ひとりきりに。「思い切っても凡夫心」と真情を吐露し、想像を絶する孤独感にさいなまれる人間・俊寛の慟哭を、廻り舞台を駆使した演出とともに描く名作。吉右衛門渾身の俊寛に、胸を締めつけられることでしょう。
歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
兄の頼朝に疎まれ、都落ちを余儀なくされた義経(
芝翫)と家来の弁慶(
幸四郎)一行は、変装して安宅の関を通り抜けようとします。関守の富樫左衛門(
梅玉)は、義経を見破りますが、必死に主人を守ろうとする弁慶の姿に感じ入り、覚悟のもとに関を通します。長唄の名曲と劇的な展開で、息をのむ緊迫感に満たされる、歌舞伎を代表する舞踊劇。このほど弁慶役九〇〇回の偉業を成し遂げた幸四郎の、文字通り十八番です。
六歌仙容彩 喜撰(きせん)
百人一首でおなじみの六歌仙。小野小町と彼女を巡る五人の男性を描く五変化舞踊『六歌仙容彩』の中から、名僧の喜撰法師(
勘三郎)が、園の茶汲み女お梶(
玉三郎)の美しさに翻弄される場面をお送りします。飄々として洒脱な踊りを見せる喜撰に勘三郎、小野小町の分身であるお梶に玉三郎と、豪華な配役も見どころです。
夜の部
廓三番叟(くるわさんばそう)
翁を傾城(
雀右衛門)、千歳を番新(
魁春)と新造(
芝雀・孝太郎)、三番叟を太鼓持(
富十郎)。翁、千歳、三番叟の三役が登場し、天下太平や五穀豊穣を祈る厳かな「三番叟」を、大胆にも艶やかな遊郭に移した趣向で見せる、華やかな祝祭舞踊です。
祇園祭礼信仰記 金閣寺(きんかくじ)
謀反を企む室町幕府の執権松永大膳(
幸四郎)は、将軍足利義輝の母慶寿院(
東蔵)を、金閣寺の二階に閉じ込めています。その天井画を描く絵師として、狩野之介直信(
梅玉)とその妻で雪舟の孫でもある雪姫(
玉三郎)を招きますが、大膳の本当の目的は、雪姫を我がものにすること。そこへ敵方から降参してきた此下東吉(
吉右衛門)と家臣の十河軍平(
左團次)が現れ、機知を見せて大膳への奉公を許されますが、果たしてその正体は......。「国崩し」と呼ばれる敵役の大役・大膳に幸四郎、歌舞伎の「三姫」と呼ばれる重要なお姫様役のひとつで、両手を縛られたまま足で鼠の絵を描く雪姫に玉三郎、颯爽とした立役の東吉に吉右衛門など、垂涎の大顔合わせが実現しました。
新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)
江戸城の鏡開きに先だって行われる大奥での鏡曳きの日。将軍の御前での舞いを所望された小姓の弥生(
勘三郎)は、恥じらいながら踊るうちに、鏡餅とともに祭壇に供えられた獅子頭を手に取ります。すると獅子の魂が弥生に宿ったのか、いつしか弥生は勇壮な獅子の精に姿を変え、力強く踊ります。可憐で楚々とした前ジテと、床まで伸びた長く白い毛を勇猛に振る後ジテ。対照的な二役を踊り分ける大曲を、舞踊の名手勘三郎が五年ぶりに手がける、注目の一幕です。
処女翫浮名横櫛 切られお富(きられおとみ)
上州の絹問屋、赤間源左衛門(
歌六)に囲われているお富(
福助)は、浪人の井筒与三郎(
橋之助)との恋仲を源左衛門に知られ、全身を斬り刻まれて棄てられます。瀕死のところを源左衛門の子分蝙蝠の安蔵(
彌十郎)に救われ、今は安蔵と薩峠で茶屋を営むお富。そこへ偶然、与三郎が現れます。お富は、愛しい与三郎が探索中の重宝北斗丸を手に入れるため、自分を傷だらけにした源左衛門を強請に行くことを思いつき、安蔵を相棒にその店を訪ねます。人気狂言『与話情浮名横櫛』のお富と与三郎の役割を入れ替えた、河竹黙阿弥の手になる痛快なパロディ。「悪婆」と呼ばれるワルぶってみせる魅力的な毒婦役に、福助が初役で挑みます。