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菊之助が語る『春興鏡獅子』
5月1日(木)に初日の幕を開けた歌舞伎座 「團菊祭五月大歌舞伎」、夜の部『春興鏡獅子』で尾上菊之助が、歌舞伎座で15年ぶりに小姓弥生、獅子の精を踊ります。菊之助に上演にあたっての思いを聞きました。
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――『鏡獅子』の魅力についてお聞かせください。
「歌詞、曲、振り、舞踊の三本柱が素晴らしいと思います。花見や田植えのさま、朧月や牡丹の花が散る様子など、役者が見ている景色や表現していることを、劇場空間でお客様と共有させていただく、そこが舞踊の魅力です。歌詞の内容をわかってご覧くださるのはもちろんですが、わからなくても観て感動していただける、そういう踊りにしたいです。踊りを物語にしてお客様にお伝えすることが、一番大事なことだと思います」
――前半は小姓弥生がお殿様の前に引き出され、はにかみながら踊り出します。
「御殿に勤める女性としての品格を保ちつつ、十代の女性の可愛らしさもあり、最初は恥ずかしがっているけれど、だんだん興に乗ってくるという面白さもあります。女方として心がけているのは、太ももや胸の大きな筋肉を極力使わず、体の内側の筋肉を使い、踊り込んで力を抜くこと。教えをいただくことはもちろんですが、日本古流の武術や江戸の人の体の使い方を、舞踊に照らし合わせながら研究しています」
――後半は獅子の精として風格ある姿になって登場、勇壮な毛振りも見せます。
「初演時のことを基本に考えると演目が見えてくると思います。元となった『枕獅子』から『鏡獅子』をつくり上げた、九代目團十郎さんの意図をくみとることが大切だと考えています。廓の傾城から御殿の小姓へ、女の獅子の華やかな舞から獅子の精の勇壮な踊りへとつくり上げられた、格調ある踊りとしてとらえなければいけないと思います」
――その九代目團十郎の薫陶を受けた六代目菊五郎が継承し、上演を重ねて練り上げたものが現代に伝わっています。六代目菊五郎の姿は写真や映画、平櫛田中作の木彫り像にも残されました。
「六代目はその時々の工夫で、帯を替えたりもしているので、今回、いろいろ検証してみたいと考えています。そして、六代目が得意にして後世に残した功績はありますが、やはり、市川團十郎家の新歌舞伎十八番の重み、歴史の重みを感じながら勤めさせていただければいいと思っています」
――小姓弥生と獅子の精、二つの演じ分けは難しいのでしょうか。
「女性は骨を感じさせないように、獅子は骨を感じて体に格をつけるように、といった体の使い方は違っても、演じ分けるという感覚はありません」
――前期の歌舞伎座から15年ぶり、再び歌舞伎座で踊られます。
「『鏡獅子』は明治26(1893)年、歌舞伎座で初演された作品です。平成8(1996)年5月、菊之助襲名披露で初めて踊らせていただいたときは18歳で、歌舞伎座という劇場の空間が広く感じられました。襲名に向けて稽古を積んで臨んだものの、力が入りすぎてすき間がない、時間が、遊びがない。手も足も出なかったというのが正直なところです。18歳に帰ってもう一回やりたいくらいです(笑)」
「しかし、その感覚、純粋に感じていた舞台に対する緊張感、初々しさ..。今考えてみるとすごく大事なことだと、稽古をしていて感じます。それは、広い空間に取り残されて踊る小姓弥生の心境としてだけではありません。経験値や芸としての技術、体の充実感がいくら上がってきても、初めて勤めた舞台のことは絶対に忘れてはいけない。近年、特にそう思います」
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再演を重ねて初心の大切さも知り、今回、歌舞伎座へ15年ぶりに帰ってきて踊る――。「本当にうれしい」と、菊之助は上演の喜びを率直な言葉で表しました。
歌舞伎座 「團菊祭五月大歌舞伎」は25日(日)までの上演。チケットはチケットWeb松竹、チケットホン松竹にて販売中です。