「三響會」 三兄弟の意気込み

新橋演舞場「十周年記念 第六回 三響會」

 左から、田中傳次郎、亀井広忠、田中傳左衛門

 10月27日(土)新橋演舞場において、「十周年記念 第六回 三響會」が開催されます。

 「三響會」は、兄弟である亀井広忠・田中傳左衛門・田中傳次郎の三人が、能と歌舞伎の囃子方の立場から、ふたつの世界の融合と対比を表現する場として、平成9年に開催し、本年で十周年を迎える公演です。三人の考えに賛同し、能と歌舞伎から豪華なメンバーが終結しており、その舞台は毎回大きな話題を呼んでいます。

 「三響會」を前に三兄弟が揃い記者取材会が行われ、演出を手掛け、プロデューサーもしている田中傳次郎から、意気込みを語りました。

田中傳次郎―――
 今回の三響會のテーマは「挑戦」です。我々が三響會を立ち上げさせていただいたのは20代。手探りで初めましたが、振り返ると、色々なものを得て反省すべきところを考えて、あっという間の10年でした。

 今年10年を迎え、「三響會」というものの形がだいぶ見えるようになってきました。そして10年目にして、やっとスタートという形がとれるかなと思っております。

 プログラムも、新しい試みのものばかりを組んでいます。
 最初の「能楽五変化」では、能楽の魅力を出したいと思っています。2つ目の、「月見座頭」では、狂言の面白さ、そして歌舞伎の狂言物が、どう狂言から歌舞伎へ移ったかという形を見せられたらと思っています。

 そして、昼の部の最後は「獅子」。三響會の出世作ともいうべき獅子を、今回は能楽のシテ方2人が親獅子、歌舞伎役者2人が仔獅子と、新橋演舞場の舞台をふんだんに使い、古典とエンターテイメントの要素を融合させ、今までにない獅子の魅力を出すことができたらいいなと思っています。

 夜の部最後の「一角仙人」は皆様もご承知のとおり、歌舞伎の「鳴神」の元となる作品ですが、お能から見ると、歌舞伎の「鳴神」は少し脚色されている部分が多く、今回はお能の「一角仙人」の本をもとにしています。長唄部分を新たに苫舟氏(藤間勘十郎)に作曲をお願いして、新しい「一角仙人」を作りました。

 今回も全て古典ですが、このように新たな試みを加え、挑戦してみたいと思っています。

田中傳左衛門―――

 三響會もおかげさまで10周年を迎えさせていただきました。お互いが、能と歌舞伎を勉強していく場として始めたのですが、その概念は10周年を迎えた今も変わっておりません。

 今回の公演、全てのものが初上演です。「獅子」は何回か上演させていただいていますが、形式も振付も新たに藤間のご宗家に一からお考えいただいています。三響會の新たなスタートとして皆様にご覧いただければと思っています。

亀井広忠―――

 「獅子」は、我々の代表曲・代表芸として、当分こだわっていきたい思っています。その他「能楽五変化」「月見座頭」「一角仙人」と、どれも、能・歌舞伎・狂言の古典曲です。アレンジの仕方、作曲の仕方など、いつもの三響會同様新しい試みを加えています。あと約2ヶ月の間、構成を練り上げ稽古をしていこうと思っています。


「能楽五変化」について―――
広忠―――
 おかげさまで、能を離れて囃子方だけが独立した音楽コンサート、といった催しも随分増えて参りました。そういったコンサート用に初めは作ったんです。

 神・男・女・狂・鬼とは能の五番立の事。能の五つの表現をメドレー形式に仕立て楽器の演奏のみで、それぞれの世界を打ち分ける、聞き分けていただく、というものを創ったんです。

 今回は、新たに面装束を付けた舞を入れ、それぞれの演目による動きの違い、音楽の打ち分け、そういったものをお聞きとどけいただければと思っています。


10年を振り返って―――
広忠―――

亀井広忠

 やり続けてよかったと思っています。能と歌舞伎を一曲の中でドッキングさせ、囃子も振り付けもアレンジする。その上で、能の良いところ、歌舞伎の良いところを活かして古典を生かしていく。このようなコラボレーションは三響會でしか見ることができません。ですから、始めたころは、いろいろ物議を醸し出しました(笑)

 しかし、このように継続できているという事は、われわれ三人兄弟を始め、能の演者、歌舞伎の演者、そしてなによりもお客様に望んでいただけているのではないか…それが継続の原動力になっているのだと思います。

 ブッキング形式ではなく、能と歌舞伎と囃子を中心に、両演者、両演奏家が混在し、一つの曲を造り上げていく、これは三響會だけ、と自負いたしてしております。

 


傳左衛門―――

田中傳左衛門

 試験的に、歌舞伎のものをお能の方にお願いして、一回限りの公演といったものは他にもございますけれど、このように継続して10年間、能と歌舞伎、2つのジャンルのものを融合させて発信していくのは、三響會だけではないでしょうか。

 それは誇れることじゃないかなと思っています。

 

傳次郎―――

田中傳次郎

 20代・30代は我々で言う若手。40代・50代で中堅です。我々は若手の後半に差し掛かって来ました。

 今までの若手の前半だった時代と、だんだん若手から中堅に向うこれからの10年というのは、一番大事な時期、がんばっていかなきゃいけない時期、ひょっとしたら、今までの10年よりこれからの10年のほうが、何倍もきつくなってくると思うんです。

 そういう時期だからこそ、自分たちでこういう会を催し、ハードルを上げていくことが成長につながると思っております。

広忠―――
 もう一言加えさせていただきますと、幸い、お客様が非常に多くおこしいただける状況になってきました。

 お客様にご覧いただける、お客様がご覧になりたいと思わせる会・演目というものが並んできた、と同時に、さらに嬉しいのは、能と歌舞伎双方の演者が、「また三響會やりましょう」と言っていただけるようになってきたという事です。年を追うごとに。


続けられる理由・お客様について―――
広忠―――
 囃子を中心として、能・歌舞伎、両方の演者、演奏家が集結する、というところにお客様が新鮮味を感じて下さっているんだと思います。

傳次郎―――
 単発の企画で終わらないような内容にしようと思っているんです。お客様の層は、おかげさまで広くて、能や歌舞伎のお客様もこられるし、学生さんも一日で両方見れるから、こういう会をみちゃったほうが早いんじゃないか(笑)というかたもいらっしゃる。

 お手紙などを頂戴すると、ただただ興味で来てみたら、面白かったですとか、古典への興味が沸いてきましたとか。

 三響會をきっかけに、例えば、歌舞伎のファンの方が能の舞台を観に行くようになったり、能のファンの方が歌舞伎を観に行ったり、お客様たちの交流も増えてきているようです。


続けていくことで3人が得たものは―――
広忠―――
 例えば「獅子」。当たり前に信じて、能の石橋を今までやってきただけでしたが、能と歌舞伎による石橋をやりはじめて、改めて、「能の石橋ってこうやって見えるんだな」と、それが解かるようになりました。

傳左衛門―――
 最大の特色は、通常こういった企画では、まず立ち方先行ということになるんでしょうが、三響會の場合、音楽がまず先行し、音楽を完全に決めてから、その他もろもろのことを決めていきます。

 同じ題材のものでも、能は能でこういうやり方なんだという事を認識することで、より新鮮に歌舞伎の囃子が感じられて、能との違いを明確にすることができます。

傳次郎―――
 新作は歌舞伎でも能でもされていますが、その舞台の組み立て方、演出家の組み立て方、というのを深く見るようになりました。

 どういう技術が使われているのか、どういう明りが使われているのか、こういう舞台装置があるのか、そういった事を色々深く見るようになりました。

 今までは、ただ自分の与えられていた仕事、囃子だけのこと、音楽的なことしかなかったんですが、自分で舞台美術や演出をするようになって、そういうものを頑張って吸収するようになりました。


意気込み・メッセージ―――
広忠―――
 本音でいえば、私の場合、お客様に楽しんで帰っていただければそれでいいんです(笑)。

 音楽的・聴覚的に聞いて楽しい、視覚的に見て楽しい、お客様が一番求めているところって、まずそこなんじゃないかな。

 芸術的意義というものは、それぞれの能で、それぞれの歌舞伎で見い出せばよいと思います。それでこそが三響會だと思っております。

 ただ、美術に関して、普通「一角仙人」や「鳴神」であれば背景は滝ですよね。「執着獅子」なら谷ですよね。

 なにか、漠然と谷があってそのなかに獅子がいる、滝があって岩屋があって一角仙人がいる…それではなんら変わらないんですよね。

 三響會はそうじゃないんです。古典でありながら、新しいものを創っていかなくてはいけない、お見せしなくちゃいけない、そして能・歌舞伎両方の世界が生きなければいけない。そう思っています。

傳左衛門―――
 出演者たちは、それぞれのジャンルのプライドをかけています。俳優さんもそうですし、演奏家もそうです。やはり他のジャンルの人と同じ舞台に立つという事は、勝ち負けだと思うんです。

 自分たちはミスをしない、自分たちはジャンル代表として来ているんだから、絶対にここは下がれない、というプライドを持って、稽古なり練習なり、気概を持ってやってくださっています。それが三響會の緊張感に繋がっているのだと思います。真剣勝負というのは、やはりお互が通じ合うんですね。

傳次郎―――
 今回チラシでは竹林をつかっています。空へむかって…僕は、平面が嫌でそれが舞台の美術へのこだわりなんです。

 お客様の客席からの視線は、全員違います。どこからみてでも、絵が浮かび上がっているような、舞台にこだわっていきたい。

 新橋演舞場のような大きな劇場の舞台で、視覚効果をどこまで現す事ができるか…それは、多分無限大だと思うんです。その中で、“静と動”の動きというものを、お客様に耳で楽しみ、目で楽しんでいただきたい。そう思っています。

 10月新橋演舞場『三響會』の公演情報は こちらをご覧ください。

 三響會ホームページが9月5日にオープンしました。こちらもお楽しみください。

三響會

2007/09/13