玉三郎がバレエ『ザ・カブキ』とベジャールを語る

坂東玉三郎 柄本弾

▲ 右より坂東玉三郎、柄本弾(撮影:岡本隆史)

 歌舞伎座新開場柿葺落「十二月大歌舞伎」で『仮名手本忠臣蔵』に出演する坂東玉三郎が、その『忠臣蔵』を題材にしたバレエ『ザ・カブキ』が上演されるにあたり、由良之助を踊るダンサー、柄本弾と対談を行いました。

 バレエ『ザ・カブキ』は、世界的振付家モーリス・ベジャールによる作品。この対談は、ベジャールと30年以上も交流のあった玉三郎に、12月14日(土)の討入りの日に由良之助を踊る、東京バレエ団の柄本が話を聞く形となりました。

柄本 ベジャールさんが歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』をバレエ作品にした『ザ・カブキ』をつくると最初にお知りになったときは、どう思われましたか。

玉三郎 その話をうかがったのはもう30年ほど前になりますが、ベジャールさんだったらつくれるだろう、と思いました。というのは、別に歌舞伎作品をつくるのではなく、東京バレエ団のための作品を手がけるわけですから。ただ、その後、三島由紀夫先生をモチーフにした『M』などもつくったベジャールさんですが、日本での長編第一作として、緊張はしていらしたみたいです。

 そのときはちょうど私も歌舞伎座で『忠臣蔵』をやっていて、ベジャールさんも観に来てくださったのですが、"苦しい"とおっしゃるんです。"自分は自分の創作をしたいのに、本場の舞台を見てしまうと、そこから離れたくとも離れられない"と。でも、それまでにも『我々のファウスト』とか、いろんな題材のものをつくってきた方ですし、『忠臣蔵』をつくるというよりも、ご自分が考えている日本の古典の世界になっているのだろうなと思っていました。ところで、柄本君はいつ『ザ・カブキ』に出られたのですか?

柄本 2010年4月、コール・ド・バレエ(群舞)の一人として出ていましたから、昨年、まさか自分がパリ・オペラ座で由良之助を踊らせてもらえるなんて、思ってもいませんでした。クラシック・バレエは基本、女性が中心ですが、この作品は男性がメインで、踊っていても、ほかの作品にはない高揚感というか達成感がある。もちろん、その分、プレッシャーも大きいのですが。

玉三郎 私は初演(1986年)の舞台も観せていただき、一作年、花柳壽輔さんの会でも一部だけ拝見したのですが、表面的な言葉になってしまうけれど、やはり美しいですね。『忠臣蔵』であるかどうかということよりも、四十七士の仇討ちの男性群像というものが美しくでき上がっていて、本当に、そこがベジャールさんの世界だな、とあらためて感じました。

 そして、ちゃんとおかるもいれば、由良之助もいて、歌舞伎の『忠臣蔵』の名場面も、ベジャールさんなりの解釈で表現されている。ですから、歌舞伎を知っている方も、ああこのシーンは雪の別れかと楽しめるんです。元々『忠臣蔵』はメインの話よりも、その周りの話のほうが面白いのですが、四十七士の討ち入りの場面の圧倒的な美しさは、本篇の歌舞伎よりもうまく表現されているのでは、と思ったほどです(笑)。

柄本 歌舞伎とバレエ、分野は違いますが、表現者として大切にするべきことは何だと思われますか?

玉三郎 毎日同じことをする、同じレパートリーをやっていくなかで、どうしたら毎日新鮮にその役に向かえるか、が一番大事でしょうね。高みを目指す、といった言葉もあるけれど、毎日新鮮にさえ向かっていれば、自然に高みに向かえるだろうし、深みにも向かえるのだと思います。私はそう考えています。

柄本 貴重なお話、ありがとうございました。


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2013/11/30