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猿之助が語る『義経千本桜』

猿之助が語る『義経千本桜』

 6月2日(木)に初日を迎える歌舞伎座「六月大歌舞伎」で、『義経千本桜』にて三役を勤める市川猿之助が、公演への思いを語りました。

初お目見得の舞台が原点

 昭和55(1980)年7月歌舞伎座。銀平娘お安実は安徳帝で初お目見得した舞台は、今も鮮明な記憶として猿之助の心に残っています。典侍の局(すけのつぼね)は四世雀右衛門。「すごく強烈な印象で、せりふ回しもよく覚えています。今回は、京屋のおじ様(四世雀右衛門)のやり方のとおりにやりたい」と、第一部『渡海屋・大物浦』の初役の典侍の局に向けて、猿之助は特別な思いを語りました。

 

 4月に出演していた『ワンピース』では、「白ひげ海賊団の白ひげがカッコいいと言われていたけれど、白ひげは知盛の写しのような役だし、チョッパーの登場では『四の切』の階段の出をやっているし、『ワンピース』の元ネタを見てみたいという人にはちょうどいい演目だと思います」と、新たな歌舞伎ファンに古典の名作をアピール。その白ひげを演じていた市川右近の長男、武田タケルが自分と同じ安徳帝役で初お目見得することについては、「お稽古の映像を見ると、大きく声を出していてとても可愛らしいですよ」と、笑顔を見せました。

 

久しぶりのお里が楽しみ

猿之助が語る『義経千本桜』

 第二部『すし屋』のお里は平成13(2001)年11月の全国公演以来、久しぶりに勤めます。「相手役の弥助さんは、今回の染五郎さんで5人目。最初に田之助のおじさんからすごく丁寧に教わり(平成9年8月国立劇場、市川右近の会)、あとから神谷町の芝翫のおじさんからも、細かいいろいろなことを、教科書のように教わりました」。ずっと見てきた猿翁の権太の口跡が耳に残っていると言い、「いつか権太もやってみたい」と、『すし屋』に対する思いは尽きません。

 

 第三部では、『大物浦』のあとに踊ることの多い『道行初音旅』が、原作どおり四段目の口として上演されます。静御前は染五郎。「『三国一夜物語』(平成14年9月大阪松竹座ほか)の乙姫龍王のコンビ以来じゃないでしょうか」と、普段と逆の立役女方の配役を楽しみにしている様子です。そして、四段目の切『川連法眼館』は、猿之助にとって特別な演目。「一生やり続けたい。余計なことは考えず、ただやることに専念したい」と、思いを込めて力強く語りました。

 

回を重ねて至った境地

 「『四の切』の忠信と源九郎狐は、『勧進帳』の弁慶のように、これ以上のものはないというくらい洗練されている」と言う猿之助。「猿翁の伯父が、どの役も200回演じればスタート地点に立てると言っていましたが、300回近く演じさせていただいて、手順を考えずにできるようになりました。これからは、共演者のイキや、その日その日で(演じ方が)変わってもいいのでは」と話す言葉にも余裕が感じられました。

 

 「子狐はとにかく可愛く。息遣いは見せてはいけない。宙乗りは吊られているように見せず、宙に乗らないといけない」。三代目から四代目へ受け継がれた『四の切』のさまざまな心得が、回数を重ねたことで、頭で考えるのではなく自然に表現されていく…。新しい歌舞伎座初の宙乗りにも、「猿之助の名跡としても、宙乗りなら猿之助と言ってもらえたようでうれしい。三代目が築いてきたことが大きいですね」と、気負うことなく挑みます。

 猿之助にとっての『義経千本桜』は、初お目見得の記憶とともに歌舞伎の原風景となっていて、「どこか懐かしい匂いのする芝居」であり、「(演じると)自分の家へ帰ってきたような、母体に帰ったような気がする」と言います。「普遍的であり、日本人らしさがあり、滅びの美学、メルヘン、歌舞伎らしさが全部入っています。三大義太夫狂言のなかでも、抜きんでて素晴らしいと感じています」。ホームに帰った猿之助の自在の活躍が期待される6月歌舞伎座、初日は2日(木)です。

 

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2016/05/23