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市川右近「歌舞伎夜話」で語った右團次襲名直前の心

市川右近「歌舞伎夜話」で語った右團次襲名直前の心

 

 12月6日(火)、歌舞伎座ギャラリーにて行われた三代目市川右團次襲名披露 二代目市川右近初舞台記念「ギャラリーレクチャー 歌舞伎夜話(かぶきやわ)特別企画」に、市川右近、武田タケルが登場しました。

市川右近

 お客様からの温かな拍手に包まれて登場したのは、紋付袴姿の右近。紋付の紋は、「三升に右」の右團次の紋です。今回は襲名記念、初舞台記念の特別な「歌舞伎夜話」、当日の様子を「歌舞伎美人」でも掲載いたします。

 

 最初の話題は11月の「博多座十一月花形歌舞伎」千穐楽について。カーテンコールで行われた垂幕のサプライズだけでなく、舞台から引っ込んで奈落に降りたときには「41年間お疲れ様でした」という横断幕が張られているという仕掛けもあったそうです。「出演者とスタッフが両側にずらっと並んで、感無量だった」と語る右近からは、皆から慕われる人柄が伝わってきます。

 

 その後、「新右近さん、お願いします」という現右近からの呼びかけに答え、紋付姿で登場したのは息子のタケル。お客様に向かって深々とお辞儀をし、「ご挨拶を」と右近にうながされると、大きな声で抑揚のついた口上を述べ、お客様から感嘆の声とともに、会場に大きな拍手が沸き起こりました。

 

 まずは初舞台『雙生隅田川(ふたごすみだがわ)』の宙乗りについて、「ちょっと怖い…」という素直な言葉。その話に乗り、右近がパリのシャトレー劇場での宙乗りテストの際に、天井の漆喰の粉がぱらぱらと落ちてきて怖かったという話を披露すると、タケルの顔がみるみるうちに強張り、お客様から思わず笑い声が起こります。「三人で飛ぶから大丈夫」と慌てて右近がなだめると、安心した様子でうなずきました。

 

武田タケル

 「お芝居は楽しい?」という質問に対しても大きく首を縦に振り、特に「早替りや、五右衛門とか」、好きなお芝居は『義経千本桜』の「狐忠信」だというタケルですが、右近から「狐忠信をやりたい?」と尋ねられると首を横に振ります。理由は「大変そうだから」と、ここでもまた素直な答えです。

 

 「狐忠信も、ヤマトタケルも、大変だけどやると気持ちがいいよ。無垢だった自分に戻してくれる。そこにその瞬間連れて行ってくれる。名作とはそういう気持ちにさせてくれるものだよ」

 

 師匠である猿翁が言った「(狐忠信を)演じようとするからダメ。狐になればいいんだよ」という言葉の意味を、身をもって実感するそうです。そんな右近の言葉を熱い眼差しで聞き、「『ヤマトタケル』をやりたくなった」というタケルに、客席からも拍手が起こりました。

 

 タケルの退席後は、1月の襲名披露演目について。『雙生隅田川』は、「三代猿之助四十八撰を襲名狂言としてできる喜び、高嶋屋右團次が当り芸とした『鯉つかみ』が入っている喜び。師匠の当り役を通して澤瀉屋の創造の精神を、高嶋屋になっても、屋号を超えて、広くこれからのちの歌舞伎の世界に伝えていけたら」と熱い思いを語ります。本水を使うシーンについて「技術が進んでも手づくり感を残していかなければならない。そういった手づくり感こそが歌舞伎のケレンの魅力」と語ります。

 

 夜の部の『黒塚』については、「阿闍梨祐慶をやらせていただくのは、この上ない喜びです。初役ですが、脇僧から始まって、代役で1週間勤めた強力太郎吾(平成2年2月大阪新歌舞伎座)、そして老女岩手(平成22年1月新橋演舞場ほか)。そして今回の阿闍梨祐慶で、すべての役を勤める。一つの演目で全部の役をさせていただくのは初めてです」。

 

 最後は恒例の、お客様からの質問コーナーへ。ご自身はどんな作品を演じたいか、という質問には「まだまだ澤瀉屋の作品をやりたいし、作っていただいたという思いがある『華果西遊記』もやりたい。市川家にとって大切な作品も演じていきたい」と、今後のご活躍が楽しみな答えがありました。タケルについては、「自分自身もそうですが、一人でも多くのお客様を楽しませる役者、“あの役者さんが出てくるとなんかうれしいよね”と思っていただけるような役者になって欲しい」と笑顔で語りました。

  来年1月の三代目市川右團次襲名披露、そして二代目市川右近初舞台がますます楽しみになった一夜でした。新橋演舞場「壽新春大歌舞伎」は1月3日(火)から27日(金)までの公演。チケットはチケットWeb松竹チケットWeb松竹スマートフォンサイトチケットホン松竹にて販売中です。

 

市川右近「歌舞伎夜話」で語った右團次襲名直前の心

※澤瀉屋の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です。

※高嶋屋の「高」は正しくは“はしご高”です。

2016/12/12