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松緑が語る、歌舞伎座『太刀盗人』
10月2日(土)から始まる歌舞伎座「十月大歌舞伎」第二部『太刀盗人』に出演の尾上松緑が、公演に向けての思いを語りました。
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面白さと、格調と
『太刀盗人』は、六世尾上菊五郎のすっぱの九郎兵衛、七世坂東三津五郎の田舎者万兵衛という配役で、大正6(1917)年に初演された作品です。今回、九郎兵衛を勤める松緑は、「祖父(二世松緑)も父(初世辰之助)も、(六世)菊五郎さんから受け継いで大事にしてきたお役。勤めさせていただけるのはありがたいことです」と切り出しました。「踊りの部分は賑やかで盛り上がりますが、そこへつなげるためには、導入部分、滑走路の部分を大事にしないといけない。これからどうなるのかと注目を集められるように物語をつくっていけたら」と、抱負を述べます。
『身替座禅』をはじめ、岡村柿紅が狂言をもとに生み出した演目のなかでも『棒しばり』などとは異なり、『太刀盗人』は、「(踊り手の)息が合い過ぎてはいけないという、他とは少し違ったアクセントがある作品」と語る松緑。十世三津五郎に稽古をつけてもらったことにも触れながら、「今は市川團蔵さんに見ていただいています。このすっぱは、頑張り過ぎずに、踊りたくないなぁというくらいの気持ちで」、そんなアドバイスをもらったと明かしました。
また、昨年10月国立劇場での『太刀盗人』以降、『泥棒と若殿』や『あんまと泥棒』など、泥棒の役が続いていることを聞かれると、「王道よりもピカレスクに魅力を感じますが、できたら間の抜けた泥棒よりかっこいい泥棒の役だとうれしい」、と冗談で場を沸かせる場面も。「すっぱの九郎兵衛は、あらすじを知っている自分でも笑ってしまう面白い役ですが、コントとは違う。大爆笑をさらうのがよいわけではないと、(六世菊五郎から)伝わっているそうです。やはり松羽目物ですから、それなりの格調をもってやらなければ」と、気を引き締めます。
笑って歌舞伎座をあとにして
今回は、中村鷹之資が田舎者万兵衛を、尾上左近が従者藤内を、坂東彦三郎が目代丁字左衛門を、それぞれ初役で勤めます。「熱心にお稽古されていて、しっかりとした踊りを踊られる、頼りになるパートナー」だという鷹之資の踊りから、父の五世中村富十郎の遺伝子を感じるといいます。さらに富十郎との思い出を振り返りながら、「その息子さんと、同じ重さの役を一緒にできるということがとてもうれしく、楽しみです」と、期待を込めました。
15歳となった息子の左近が話題に出ると、「(自分の同時期に比べ)すべてにおいて真面目に取り組んでいると思います。ですので私ではなく彼の曽祖父や祖父を目指して」と、笑顔で応えました。彦三郎は、松緑が席亭として開催しているオンライン配信の「紀尾井町家話」へも出演する仲。「なかなか仲間と芝居の話をゆっくりすることもできない時期ですので、あの配信はコミュニケーションツールにもなっています」と話します。
この顔ぶれで演じる今回の『太刀盗人』。「お客様に、何も考えないで喜んでもらうような演目です。この四人で、ほんわかと、そしてうきうきとした舞台をつくっていきたいですね」と述べ、さらに「同じ第二部には『時平の七笑』という、重厚でドラマティックな舞台もあります。その後に、この『太刀盗人』をご覧いただき、笑って歌舞伎座をあとにしていただけたらと思います」と、改めて意気込みを見せました。
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歌舞伎座「十月大歌舞伎」は10月2日(土)から27日(水)までの公演。チケットはチケットWeb松竹、チケットホン松竹で発売中です。