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彌十郎が語る、歌舞伎座『人間万事金世中』

彌十郎が語る、歌舞伎座『人間万事金世中』

 

 2023年1月2日(月・休)から始まる歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」第二部『人間万事金世中』に出演の坂東彌十郎が、公演に向けての思いを語りました。

黙阿弥が描く散切物の喜劇

 『人間万事金世中』は、令和5(2023)年に没後130年を迎える名作者・河竹黙阿弥が、イギリスの戯曲を翻案した喜劇です。明治の文明開化の新風俗を描いた“散切物”と呼ばれる世話狂言の一つでもある、一風変わったこの作品で、主演の辺見勢左衛門を、彌十郎が初役で演じます。「最初にお話を頂戴したときは驚きました。ですが喜劇で、それも黙阿弥ものだというのがまた面白いと思いました。自分にとっては挑戦だと思っています」と、まずは本作の印象を率直に語ります。

 

 演じる勢左衛門は、ケチで強欲ながら、どこか愛嬌もにじませる人物。「救いのないくらい嫌なやつですが、笑えてしまう。こういう人いるよね、というキャラクターです。お客様には役に入り込んで観ていただくのではなく、俯瞰で見て笑っていただけたら」と言います。「以前拝見した紀尾井町のおじさま(二世尾上松緑)と(五世中村)富十郎のお兄さんの勢左衛門のイメージを両方自分に入れ込んで、新たな芝居ができれば」と、思いを口にしました。

 

 本作の特徴について彌十郎は、「黙阿弥調といわれるせりふと、散切物ならではのテンポ。松緑のおじさまのせりふをお聞きしていると、とても軽やかで素敵なんです。ただ早ければいいのではなく、お客様に伝わるように。それでいて面白く」と述べながら、「明治時代というのは、これまでの日本が歩んできた歴史のなかでもとても大きな変化があった時だと思います。黙阿弥が変化の様子をさまざまに取り入れて書いていらっしゃるので、それを表現したい」と、散切物ならではの面白さに触れました。

 

挑戦を見届けてほしい

 歌舞伎座で主演を勤めるのは、平成29(2017)年8月『修禅寺物語』以来およそ6年ぶり。「感無量です。上で父や兄、伯父たちに心配されているでしょうけれど、なんとか(芸を)繋ぎましたと言えるようになりたいです」と、覚悟を見せながらも、「幸いにも気心知れた同年代の方々と一緒ですし、ご相談しながら皆さんでつくる芝居だと思っていますので、その点はとても安心しています」と、座組へ全幅の信頼を寄せ、頬を緩ませます。

 

 平成16(2004)年大阪松竹座での公演以来、およそ19年ぶりの上演となる『人間万事金世中』。「歌舞伎における散切物というジャンルが、皆無にならない方がいいと思っています。(未来に)残すうえでもし変える必要があるならば、実際に何回か上演し続けているうちに、違う演出方法が出てくるでしょう。今後も再演されるようなものにしなければ、せっかくやらせていただく意味がありません。チャンスをいただいて、テストされていると思って臨みます」と、再演に向けた並々ならぬ気合をのぞかせました。

 

さらなる飛躍の1年に

 歌舞伎の舞台はもちろん、今年は映像作品でも好演し、活躍の場を広げた彌十郎。「最初は歌舞伎とまったく違うものを勉強する感覚でしたが、歌舞伎に戻ってから、映像の仕事で得たものを新作歌舞伎などで自然と使えている気がしました。逆に映像の仕事で歌舞伎の引き出しから演じることもあり、両方を使うことができる面白さもありました」と、その経験は確かな糧となった様子。

 

彌十郎が語る、歌舞伎座『人間万事金世中』

 

 自身の映像出演をきっかけに歌舞伎に興味をもっていただくことは「すごく意義のあることであり、すごく難しいこと」と語り、「歌舞伎は本当に間口が広いです。少しずつでも何か見やすい演目からご覧いただき、いつかは古典の面白さもわかっていただけたら。歌舞伎を観たいと思ってくださった気持ちを裏切ってはいけないですので、自主公演を含めて、どんどん(初めての方もご覧になりやすい演目も)やっていきたいと思っています」と、歌舞伎の未来を見据えます。

 

 そんな今年一年を振り返り、「これまでも常に前進することだけを考えてきましたが、今年はいつもより少し大きく前進できた年かなと思っています。でも、もっともっと」と、気を引き締める彌十郎。「歌舞伎の舞台から離れて勉強させていただいたことを、できることならば一気に放出する1年にしたいです」と来年への抱負を語り、今後も彌十郎が見せる舞台に、ますます期待が高まります。

 歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」は、2023年1月2日(月・休)から27日(金)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2022/12/26