歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



「一座七走」の精神で





上、写真3点は、2010年10月9日(水)釜山国際映画祭(PIFF)で『わが心の歌舞伎座』のワールドプレミアが行われた海雲台にある映画館と、上映後、観客の質問に答える十河監督。

―歌舞伎を観たことがない方に向けて、監督は何を訴えたいですか。
常に言っていたのが「これは理解する映画ではない。感じる映画なんだ」ということ。もし歌舞伎の知識がほしいなら、書籍でもなんでもたくさんあるからそっちで勉強してください。
歌舞伎座という器のなかで俳優さんや裏方さんが仕事をしている姿を通して「歌舞伎の世界ってこういうものなのか」と感じとってもらえれば嬉しいです。

歌舞伎は素晴らしい日本の財産ですから、歌舞伎を観たことがない方でも十分感じられます。歌舞伎には驚くほど色々な知恵がつまっていて、創造力もあり、とても斬新です。
国際化された今、日本人として歌舞伎について知るチャンスにこの映画がなればいいとも思っています。
歌舞伎は敷居が高いと言われがちですが、この映画が敷居をまたぐきっかけになって、「歌舞伎の世界って面白いな、日本に生まれて良かったな」と感じていただければ、と思っています。

―最後に、監督から全ての観客へ向けてメッセージをお願いします。
最近、「感じる」ということが映像メディアから少なくなっています。 感じる間もなく映像が変化していく。それは心の記憶になりません。そうではない、心で感じられるドキュメンタリーを私は常に求めていました。

「一座七走」という禅のことばがあります。「七回走ったら一回座りなさい」という意味です。とあるお坊さんが「世の中の変化は激しく、人々は新しいものを求め走り続けている。そんな時こそ一度座ってじっと足下を見て考えなさい。」と警告していました。観客も疲れていると思います。そんなときこそ一回座って自分の心を見つめ直し、改めて周囲を眺めると、日本には身近なところに歌舞伎というすばらしい世界があった。これを見直すことによってまた新しいものが見えてくるし、大事なものを見失わなくて済む。そういう映画にならないかと思っています。

人間が人間の力でやっている世界の素晴らしさを見直してほしいです。