歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

ゆったり時間を楽しむのが「日本の心」

 菊之助さんが歌舞伎の世界に感じる「日本の心」とは?

 「古きを知って新しきを創る」ということに尽きるのではないでしょうか。たしかに歌舞伎が誕生してから400年あまりの歳月が過ぎ、僕たちは先人の知恵や工夫を受け継いで舞台に立っているわけです。型は教科書のようなものです。でも僕には、教科書から「さあ、あなたは何をしますか」と問いかけられているように感じます。教えていただいたことをきちんと演じるのは一番大切なことです。しかしそこから離れて新しいものを創り、自分の個性で殻を破っていく闘いも必要です。昨年、ロンドンでも公演した『NINAGAWA十二夜』は、シェイクスピアと歌舞伎を融合しようと試みました。その中で、自分のプロデュース能力を高める必要を強く感じました。新作を創っていくには、自分が先頭に立たなければいけないと責任を常に感じています。
 現代演劇にも出させていただく機会がありますが、そんなとき「性根をつかむ」ことの大切さは、古典でも現代劇でも同じだと感じます。芸能に現代も過去もないと思うし、生きているお客様に、生きている感情を届けるのが芸能だと思っています。表現方法は多少違うかもしれませんが、私たち俳優が、お客様に届けられるのは「性根」でしかないんです。

 菊之助さんが未来に伝えたい「日本の心」とはなんでしょう。

 今、どうしても自分の時計が速くまわっている気がします。だれでも平等に与えられる24時間を速く感じるのかゆったりと感じるのか、自分の精神状態によるのでしょう。日本の伝統の中には季節を楽しむ感覚があったはずなのに、失われかけていると思います。歌舞伎はもちろん能、狂言、書、茶など、すべてが時間を楽しむゆったりした感覚を持って、季節を豊かに表現しています。お客様が歌舞伎をご覧になることによって、ゆったりとした時を感じながら、劇場のなかで過ごしていただけるとうれしく思います。

 さて、今年の最後の舞台が玉手御前。どんな気持ちで締めくくられますか。

 自分の思いを貫いて、俊徳丸を救うことができた。その満ち足りた気持ち、清々しい気持ちをお伝えできるように、演じたいと思っています。みなさまお忙しいとは存じますが、劇場にお運びくださればうれしく思います。

 

尾上菊之助

昭和52年8月1日生まれ。七代目尾上菊五郎の長男。昭和59年2月歌舞伎座『絵本牛若丸』の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。平成8年5月歌舞伎座『白浪五人男』の弁天小僧、『春興鏡獅子』の小姓弥生で五代目尾上菊之助を襲名。平成17年初演の自ら発案、主演した蜷川幸雄演出『NINAGAWA 十二夜』は、昨年ロンドン公演を実現、好評を博した。

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