歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



知ると楽しい、歌舞伎の扇

荒井信夫さん。20代前半からこの道に入り、父・良夫さんに就いて精進してこられた。現在、信夫さんの息子さんも扇の道に入られ、親子3代で店の伝統を守っている。

 扇という道具は、実にすぐれた名品です。すっきりと閉じた姿からたおやかに開くと、美しい絵画の世界が表出する。無から有へ、少しずつ絵が現れていくあたりも心憎い演出です。この機能美あふれる小道具は、日本で発明されたそうです。

 歌舞伎の舞台にも、数多の扇が登場します。客席からは扇面の図案までは見えないかもしれませんが、まぢかで見る実物は芸術品そのもの。その歌舞伎の扇の多くを手がけているのが浅草にある老舗・東扇堂です。初代から数えて5代目にあたる荒井信夫さんにおはなしをうかがいました。

歌舞伎座5月公演のための扇を制作中。白地は『暫』、赤字は『寿猩々』の扇となる。下地を塗り、金箔を置いて、「礬砂(どうさ)」と呼ばれるコーティング剤をかけた段階。この後、扇絵師が絵付けを行う。

信夫さんがコツコツと撮りためてきた歌舞伎の扇の写真。扇面の図案は、大胆かつ優美で、日本人の卓抜したデザインセンスに驚かされる。

 「歌舞伎で使われる扇は、演目ごとに決まっていることが多いですね。でも、きっちり決まっているわけではなく、たとえば『娘道成寺』だと牡丹の図案と火焔太鼓の図案の2系統あったり、俳優さんの好みで図案やサイズが変わったり。その都度、決められていきます。

 歌舞伎の扇は、1カ月弱の公演期間中、毎日使われます。動きの激しい演目では傷むこともありますから、1公演で2本準備するものもあります。また、扇の要(かなめ)は、締め具合で開く加減をゆるくしたり、きつくしたりできますが、連日使うのでやや固くして頑丈にしておくことが多いですね」




歌舞伎の逸品

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