歌舞伎いろは

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巨大な緞帳はどうやって作る?

 緞帳は、分割して織って縫い合わせるのではなく、完成サイズのまま一枚で織り上げていくとうかがいました。一体どんな風に作っているのでしょうか。脇田さんにご案内いただき制作現場を拝見すると…、大きな建物のなかに巨大な緞帳がいくつも広げられています。織っている最中のもの、織り上がって糸の始末をしているもの。機械を使わない手作業なのでとても静かです。

 「緞帳は綴織(つづれおり)という手法で織られています。とても複雑に見えるかもしれませんが、織り方で言えば一番シンプルな平織りにあたるんですよ(※)。糸の始末の関係で、綴織は裏向きにして織っていきます。製織期間は図案にもよりますが、平均で2〜3ヵ月。織る前には原寸大の下絵を作ったり、糸を染めたりする作業があり、織った後は糸の始末などをしますから、全工程でいうとデザイン画ができてからだいたい半年くらいかかります。

 色は100〜300色くらい使うんですが、私たちは糸を染める工程も外注せずに自社で行っています。思い通りの色が出ていなかったら、染める人と顔を付き合わせて納得いくまでやり直します。これを妥協して在庫の糸で済ませていては、色の調和が微妙に崩れ、精度の低い出来になってしまいます」

※)平織り:たて(経)糸とよこ(緯)糸を1本ずつ交差させて織る方法。緞帳の表面に見えている糸はすべてよこ糸。レーヨンなどの素材の糸を染めて6本を撚(よ)リ合わせて1本の太い糸にし、下絵どおりに織り込んで、柄を表現する。たて糸は綿などの糸を用いる。よこ糸よりかなり細く、強く張ってあるため織り上がった後は布の表には出てこない。



「臥機(ふせばた)」と呼ばれる巨大な織機。長さはなんと24.2m。一人の職人が約2〜3mを受け持ち織り進める。写真には3人しか写っていないが、10人くらい並ぶときもあるそうだ。全景写真・手前は、最後の仕上げをする様子。


緞帳を織る職人は、一人前になるまで、ざっと10年はかかるという。単純に織ることはすぐにできるようになるが、毎回違った図案を織るため、常に頭を働かせていなくてはならない。図案ごとの細かな判断を自分でできるようになるには、かなり時間がかかるそうだ。


緞帳のためのよこ糸。緞帳は劇場にかけられると照明の関係で沈んだ色に見えることが多いそうだ。このため糸はやや明るめに染めてある。

歌舞伎の逸品

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