『廓文章』夕霧

上方の傾城―『廓文章』夕霧

 『廓文章(吉田屋)』に登場する傾城・夕霧のかつら。「兵庫」と呼ばれる大きな髷は、格の高い傾城の象徴とされています。ご存じのように夕霧は病み上がり。顔の左に締めた紫の「病鉢巻」と、かすかな色香が漂う乱れ髪(専門用語では「しけ」と呼びます)がそれを暗示しています。この演目は、大坂が舞台ですから髪も上方風。「鹿の子」と呼ばれる絞り染めや、襟元でキラキラとしなだれる「えりずり」という飾りがつき、やわらかく艶のある雰囲気です。

文・田村民子 / 写真・小澤義人 / 協力・有限会社光峯床山