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五代目雀右衛門襲名に向け、思いを新たに芝雀が語る
3月3日(木)、歌舞伎座「三月大歌舞伎」から始まる、中村芝雀改め五代目中村雀右衛門襲名披露興行を直前に控え、芝雀が現在の心境を語りました。
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生まれ変わるつもりで
60歳で迎える3月の雀右衛門襲名。「父(四世雀右衛門)は女方でやっていくと決めたとき、七世幸四郎の祖父から、60歳になってやっと一人前の女方になると言われていました。図らずもその60歳で襲名。身の引き締まる思いです」。還暦を迎え、生まれ変わるつもりで舞台を勤めたいと、芝雀はきっぱりと決意を表しました。
あがり症で緊張する質なので、普段から平静を保つようにしているそうですが、「父が気持ちを大事に、役の性根を十分に理解し、喜怒哀楽、思いを強く持つことでお客様に伝える、と言っておりましたので、(平静さは)いったん捨てて情熱的にいきたい」と、襲名に向けて心を決めています。「雀右衛門の名前にそぐわしくなれるように」、気持ちも体も初日に向けて努力を惜しみません。
“芸をなぞる”ことの本当の意味
「姫という役は、江戸の庶民が、こんな姿だったら素敵だろうなと思うようなものだから、三姫を勤めるときは特に、強い者に対して気持ちで刃向うところもありながら、姫らしさを出すことが重要」「出と引込みが特に大切」等々、父の言葉を反芻しながら、芝雀は襲名披露狂言で勤める時姫、雪姫への思いを語ります。
あらためて金閣寺を訪れ、「日本を代表する建築物、本当に美しいと思いました。舞台ではそこに桜が降る…。日本の美しさ、日本の心を集約している」、その情景で雪姫を演じることの幸せを感じたと言います。雪姫は桜の木に縛られ、舞台に一人残される場面がありますが、「よほど強い思いがないといけません。流れが止まっているように思われてはだめで、思いがずっとつながっていてこそ、お客様にも風情が細かく伝わって喜んでいただけるのだと思います」。
初役で挑む時姫は、「魁春のお兄様のご指導を賜り、おっしゃることを基本に」勤めると、意欲を見せます。父の教えである、芸をなぞることの大切さが身に沁みているからこそ、「なぞっても同じ人間ではないので、まったく同じにはなりません。オリジナリティーが発生します。やがて“手に入る”ようになって、初めて自由に解放される」と、進む道に迷いがありません。
父の形見、父の言葉を胸に新雀右衛門へ
雀右衛門の名前を継ぐにあたり、「目標は父」と力強く答えた芝雀。気付いたときには父が女方で、子役時代に渡された役も母親から「やるからやるのよ」と言われて納得し、親に反発することなく、あまり苦労もなく歩んできたと謙遜します。
しかし、だからこそ今、「父の芸をいかに継いでいくか」に身も心も捧げて苦心し、労をいとわず邁進することができるのでしょう。「父があったからこうしていられる、(二世松緑の)伯父に可愛がってもらった思い出もいっぱい」と、受けてきた恩恵を、襲名の大きな舞台で花開かせようとしています。
普段は優しい父が芸には厳しく、また、楽屋で鏡台を並べているときは「しょっちゅう、もっときれいに、もっとやせないときれいに見えないと言われていた」と、生前の四世雀右衛門の姿は、今も芝雀にとって鮮やかな存在です。襲名披露にあたり、その父の鏡台に新しく手を加えて楽屋へ持ち込み、「父がだんだん役者として上っていくときに身に着けていた腕時計」をお守りに、いよいよ3月の歌舞伎座に立ちます。新たな舞台の開幕はもうすぐそこです。
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歌舞伎座中村芝雀改め中村雀右衛門襲名披露「三月大歌舞伎」は、3月3日(木)から27日(日)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットWeb松竹スマートフォンサイト、チケットホン松竹にて販売中です。