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幸四郎が「歌舞伎シアターバーチャル座 in 福島」に登場
3月10日(土)、福島市 パルセいいざかで「歌舞伎シアターバーチャル座 in 福島」が開催され、松本幸四郎が舞台挨拶とトークイベントに登場しました。
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東日本大震災復興祈願の催しとして行われた「歌舞伎シアターバーチャル座 in 福島」。一昨年5月にアメリカのラスベガスで上演した『KABUKI LION 獅子王』が、最先端の映像技術により新たな映像作品となって上映されました。
ステージには、奥のスクリーンから3メートル手前に紗幕が張られています。抽出された俳優の映像を、スクリーンの背景とは別の映像として紗幕に映し出すことで、立体感と迫力が生まれます。毛振りのように輪郭線が複雑で動きの激しい映像も乱れることなく、躍動感あふれる獅子や、演者の熱までが伝わる映像作品となりました。そして、会場での照明の演出も加わって、ラスベガスの劇場とは違った新たな観劇体験となりました。
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技術によって願いがかなう、だからこそ夢は高く
上演後、ステージに登壇した幸四郎は、ラスベガスでの歌舞伎製作の日々を振り返り、「何をしたいという夢が、最新技術によってかなってしまうとわかり、大きな憧れ、夢を持つことが大事だとあらためて感じました。(襲名で)新しいスタートを切りましたが、何ができるかではなく、何がしたいか、高い夢を持ちましてそれに向けて邁進いたします」と挨拶して大きな拍手を浴びました。
「新しい歌舞伎の表現法に挑戦しようととり組んだのが、この歌舞伎シアターバーチャル座。技術にさらなる磨きをかけるとともに、新しい歌舞伎の可能性を広げるお手伝いができれば」と挨拶したのは、篠原弘道NTT代表取締役副社長。岡崎哲也松竹株式会社常務取締役は、「福島ご復興の一助としてご覧いただけ、本当にありがたい。NTT様はじめ、最新技術の結晶で古典の歌舞伎を新しい形に仕立て直し、どなたにも楽しんでいただけるように製作しました」と語りました。
最先端技術と融合した歌舞伎が、さらに新たな形で
続くトークイベントではまず、『獅子王』がラスベガスで楽しんでもらえるように、「テンポアップし、舞台背景もアクティブに変わって、まったく新しいテイスト、しかし古典のテイストもある歌舞伎として上演」(岡崎)されたと説明。幸四郎は、「たとえば花道なども、劇場に合わせて銀橋のようにしたりと、その劇場の機構を活かしました。かけ声を入れるのではなく、現地の方の見方で見ていただく、現地でないと味わえない歌舞伎を目指しました」。
その舞台を、「普通のテレビの4倍きれいな映像を9台分、劇場まるごと映像空間にして羽田空港へ送り、ライブで観ていただきました」と、木下真吾NTTサービスエボリューション研究所主席研究員。大容量のデータを伝送し、伝送先でほぼ同時に見せるというNTTが誇る最先端のICT(情報通信技術)、「Kirari!」によって実現されました。時を経て今度は、その大容量のデータを素材に、臨場感たっぷりの新たな作品として上映されました。
技術が表現のボーダレス化を起こし、進化の幅を広げる
ラスベガス上演の映像をつくり上げたNAKED.Incの村松亮太郎代表は、「いろいろなものがボーダレスになってこういう表現がつくられるのだなと。表現の方法だけでなく、伝え方、鑑賞の仕方も新しくなり、場所をもボーダレスにした。見る側と見せる側のボーダーが壊れる時代もありうるし、さまざまなボーダーを超えることが大事だと思いました。技術の発展はスピードが速いのでリアルに近づくだけでなく、あらゆる方向にもっともっと進化していくでしょう」と、上映の感想を述べました。
「NAKED.Incさんの映像の色彩、美しさは歌舞伎の表現として当然となる時代が来ると思います」という幸四郎は、加えて今回、一般向けに初披露された「歌舞伎シャウト」で、映像に向かってかけ声をかけることで、映像が反応するのを体験し、「実際の舞台でも、大向うの声がかかるとやっているほうも気持ちよく、そのときしかない空間ができるのですが、この双方向の技術がまたいろんな可能性を広げるのでは」と期待を高めていました。
木下主席研究員は、「よりライブ感を高め、何カ所でも見られる大規模な展開で新しい見方をご提供できれば。2020年に向け、歌舞伎とICTが融合して残るものができないかと挑戦してきましたが、歌舞伎は常にイノベーティブで、挑戦的な技術をとり入れていて逆に勉強になります」と語り、村松代表は、「その時その時の先進のものは残る。先進性が発揮され、本質的なものは時代を超えて残り、風化しません。ただ新しいのではなく、そういうものをやりたい」と意欲を見せました。
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幸四郎が福島の皆様のために
上映後の主催者挨拶では、鈴木正晃福島県副知事が「明日で震災、原発事故から7年。課題はまだたくさんありますが、明るい光も差しています。これからもチャレンジを続けるのでご支援ご協力をよろしくお願いします」と呼びかけ、歌舞伎シアターバーチャル座を「ぜひ福島で」と開催に尽力した山口圭介NTT東日本福島支店支店長は、会場を埋め尽くしたご来場者に感謝の言葉を述べました。
「私ができることは、唯一の得意技である歌舞伎をすることで、少しでも多くの笑顔をご提供できたらと思っています。そこはデジタルの伝送ではなく、アナログで、この地にまたうかがいたい」と幸四郎。「素晴らしいものを大事に受け継ぎ、残してさらに進化、発展していきたい。その力になりたい。今日のような試みに自分も興奮しているので、また共有の時間をいただきたいと思います」と締めくくりました。