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松緑が語る、初世尾上辰之助三十三回忌追善

松緑が語る、初世尾上辰之助三十三回忌追善

 

 

 2月2日(土)から始まる歌舞伎座「二月大歌舞伎」で、初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言に出演する尾上松緑が、公演に向けての思いを語りました。

 昭和62(1987)年3月28日、40歳の若さで亡くなった初世辰之助(のち、三世松緑追贈)。病気療養から復帰したのを喜んだのもつかの間、突然の訃報に驚いたあの日から32年の年月が流れ、2月の歌舞伎座で三十三回忌追善狂言として『すし屋』『暗闇の丑松』『名月八幡祭』が上演されます。「父という役者がこういう役を演じていたと感じてもらえるように、一所懸命勤めたい」と、松緑が気持ちを込めました。

 

父や祖父の匂いがどこかある権太に

 昼の部の『すし屋』では、松緑がいがみの権太に初役で挑みます。「菊五郎の兄さんがなさっているのが、祖父(二世松緑)のとおりですので、一から稽古していただいて音羽屋型の権太を勉強したい。教わったとおりにやりたいと思います」と意気込みを見せました。辰之助は東横ホール(昭和42年2月)とNHK伝統芸能の会(昭和52年7月)で勤めましたが、松緑は、「今の私より若い権太ですが、若さゆえの魅力が感じられる権太でした。教わったとおり勤めるなかにも、どこかにそんな父や、祖父の匂いがあれば」と述べました。

 

 『義経千本桜』には碇知盛、いがみの権太、狐忠信の大役3つがありますが、「3役のなかでは権太が、素の自分に近い気がしますので、今回をスタートにして、自分なりの権太をつくっていけたらいいなとも思います」。権太は悪ぶっているけれどシャイで、これまでの親不孝をなんとか償わないといけないという気持ちもあり、「その心根は私の心情にとても近いところがあると思うので、そういう気持ちが舞台の上にも出ればいいなと」、追善への思いも明かしました。

 

松緑が語る、初世尾上辰之助三十三回忌追善

辰之助世代がそろう『名月八幡祭』

 夜の部の『名月八幡祭』では、一昨年6月歌舞伎座に続く2度目の縮屋新助を演じます。辰之助が2度目に新助を勤めたとき(昭和58年6月)、美代吉は玉三郎、そして三次は仁左衛門でした。「思い出深いもの」と松緑の言う、その舞台の二人が、追善だからと同じ役でそろって出演します。「心強いお言葉をいただきました。まさか、父の盟友だったお二人が出てくださるとは思わなかった。俺がやるよ、と父が出て来るんじゃないかと思うような顔ぶれで、本当にありがたい」。共演者への感謝が笑顔に表れました。

 

 「父の新助の演じ方はストーカーまがいではなく、ニュートラルな田舎の商人が人生初めての恋をし、それが自分の中で消化し切れない、というやり方で演じていたと思うので、それを踏襲したい。また、新助という役は主に美代吉に転がされる役なので、どう来られても対応できるように、アドバイスを受けながらやっていきたい」。仁左衛門と玉三郎に演出面もゆだね、「二人にリードされる形で新助を一からつくっていければ」と、新たな気持ちで新助役に臨みます。

 

父が得意とした役を菊五郎が勤める

 「父は粋でいなせな役のイメージが強く、(本来なら)三次役の人だったのかもしれませんが、朴訥とした、人のいい田舎の商人の新助を演じていたのが、非常に新鮮でした。だまされて最後に逆上していく凄み、すさまじい爆発力、自分のなかでもインパクトの強い役です。父は陰と陽でいうと、陰の強い役者だったと思いますが、後半に怒りを爆発させる役を得意としておりました」。新助のほか、『坂崎出羽守』とともに挙げたのが『暗闇の丑松』。辰之助の丑松(昭和58年2月歌舞伎座)でお米を勤めた菊五郎が今回、丑松を見せます。

 

 さらに、父と同じ年の梅玉が、「亨さん(辰之助本名)の追善に(左近を)出してやらないとだめだよ、とおっしゃってくださいまして」、『當春祝春駒』の梅玉の祐経で、曽我五郎に左近が出演します。息子の左近に松緑はよく、「お前のひいお祖父さん、お祖父さんは格好いい人だったと言っています」。

 

役者って素敵な仕事

 「やはりショックだったんでしょうね。当時の記憶が抜けているんです」。12歳の誕生日に「一緒に行ってやれないけど、好きなもの買いなと」、小遣いをもらったのが父との最後の会話で、「弱った姿を私にだけは見せたくなかったようで」、病院にも行けなかったと松緑は明かしました。いくつかのことは覚えているけれど、「ほとんど記憶がない。記憶が戻るのは、(自分の)二代目辰之助襲名の初日(平成3年5月)。『対面』で菊五郎の兄さんが、そんなに力むなよと、ぽーんと背中をたたいて言ってくださってから」。年月を経た今だからこそ、沸き上がる思いがあります。

 

 子どもの頃、父を見て、『蘭平物狂』で初めて「役者って格好いいな」と思い、毎月まったく異なる役を演じるのを「人の人生を演じるのは面白いな」と思っていたという松緑。「他人の人生を演じることは、たとえ歌舞伎の架空の人物でも責任を伴うと感じるようになりました。そういう責任を思えばこそ、人間の心理を細かくえぐっていく役はとても面白い。役者って素敵な仕事だなとも思いますし、実は父もそういうものが好きだったのではないかと思うようになってきました」。

 松緑が父、初世辰之助への思いを込め、ゆかりの顔がそろっての歌舞伎座「二月大歌舞伎」は、2月2日(土)から26日(火)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で、1月12日(土)発売予定です。

2019/01/11