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白鸚、幸四郎が語る、歌舞伎座『勧進帳』

白鸚、幸四郎が語る、歌舞伎座『勧進帳』

 

 4月3日(土)から始まる歌舞伎座「四月大歌舞伎」第一部『勧進帳』に出演する松本白鸚、松本幸四郎が、公演に向けての思いを語りました。

親子で挑む弁慶

 今回の『勧進帳』では、武蔵坊弁慶を白鸚、幸四郎が日替りで勤めます。かつてない親子競演となる交互出演による弁慶について、白鸚は「覚悟を決めました」と切り出します。「このご時世に、しかもこの年齢で、そして息子と一緒に『勧進帳』ができますのは、私にとってとてもうれしいことです。無事に一所懸命、心して勤めたいと思います」と、決意をにじませます。

 

 一方、白鸚が弁慶を勤めるA日程では富樫、B日程で弁慶を勤める幸四郎は、「あらゆる時代をくぐり抜けてきた歴史ある『勧進帳』という作品で、少しでも皆様を勇気づけることができたら」と、上演への思いを口にします。また、父・白鸚と弁慶を交互に演じることについては、「(A日程とB日程を)どうぞ観比べてください」と意欲をみせながらも、「とにかく、曽祖父(七世幸四郎)、祖父(初世白鸚)、父の弁慶を目指して勤めてまいりたいと思っております」と、真摯に語りました。

 

高麗屋の芸を受け継ぐ

 白鸚はこれまで、弁慶として1600回以上を演じた七世幸四郎に次ぐ1150回もの上演回数を重ね、今回、本興行の『勧進帳』弁慶としては史上最年長での上演となります。「回数はお客様とつくっていくもの」と感謝を込めながら、「稽古を重ね、お客様の前で芸をお見せする。その気持ちは、この年になっても、若い頃でも、世情がどういう状態であろうとも、変わりませんでした。だからこそ、これまでやれてきたのだと思います」と、感慨深げに振り返ります。

 

 平成26(2014)年に弁慶としてのスタートを切った幸四郎は、「回を追うごとに、きついものだと感じます。大変な役だと実感できるのにも時間がかかる。1回1回が特別、毎日が千穐楽だと思って演じています。いつかまたできるとは思っていません」と、1回の公演に懸ける決意を打ち明けます。「これをやるために生まれてきた」、「弁慶に出会ったからこそ歌舞伎役者になった」と、白鸚と幸四郎がそれぞれに表現する様子からも、高麗屋が何代にもわたり向き合ってきた、弁慶という役に対する並々ならぬ思いが感じられます。

 

 今回の上演では、「弁慶の役を次代に渡す、息子に託す」気持ちが根底にあるとしながらも、「体力や年では息子に負けていますけれども、それを超えたい。自分に残っているのは芸しかないので、今現在の白鸚のせりふと声、芸をお見せして、対抗したいと思います」と笑顔で語る白鸚に対し、幸四郎も、「また新たな白鸚としての弁慶が始まるんだと思います」と和やかに応じます。「父の弁慶を見て育ち、父に教わった弁慶です。違いよりも、いかに根本が同じかと思われることを目指したい。誇りに思う“高麗屋の弁慶”を、多くの方に自分の体を通してお見せしたいです」と、気合十分です。

 

白鸚、幸四郎が語る、歌舞伎座『勧進帳』

 

感謝と信念を込めて

 演じるうえでの難しさについて、「弁慶は“受け役”だと言われたことがあります。しっかり正面で受けて、相手に返す。それが苦しいとも感じましたが、だからこそ弁慶からは強さというものを感じられるんでしょうね」と幸四郎が説明すると、白鸚も、「少しでも集中力が欠けると、弁慶が弁慶にならない。少しでもその気になっていないと、お客様に見透かされてしまうようなお役です」と続けます。

 

 また、白鸚が「親の口から言うのもなんですが、歌舞伎への思いが強いです。僕は一生このままいくと思いますけど、息子の十代目幸四郎は違う」と、未来の歌舞伎を担う幸四郎の昨今の先進的な取り組みを讃えると、「父は目指すところであり、目標。背中を追いかけておりますが、一方で、抜ける存在ではないとも感じています。それくらい、役者として生き抜いている姿が格好いい」と幸四郎が語り、親子の確かな信頼感をのぞかせました。

 

白鸚、幸四郎が語る、歌舞伎座『勧進帳』

 

 最後にお客様へ向けて、「このご時世に歌舞伎ができるのは、皆様のあたたかいお心、力強い応援があってこそ。だからこそいい舞台をお見せしなければ、その一心でおります」と白鸚、「お芝居が人にとっては必要なものだと信じて勤めております。少しでもお力をお渡しすることができれば」と幸四郎が呼びかけ、穏やかに締めくくりました。二人がみせる高麗屋の弁慶の躍動に、期待がふくらみます。

 歌舞伎座「四月大歌舞伎」は4月3日(土)から28日(水)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2021/03/18