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歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」初日開幕

歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」初日開幕

 

 2024年2月2日(金)、歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」の初日が幕を開けました。

 昼の部の開場前には「一番太鼓の儀」が行われ、中村勘九郎と田中傳左衛門が出席しました。初めに千田学歌舞伎座支配人から傳左衛門へ、紅白の水引が結ばれた撥(ばち)を渡す“撥渡し”が行われ、猿若祭の開幕を知らせる一番太鼓の音が劇場前に響きました。

 

 集まったお客様の前で勘九郎は、「今年は(江戸歌舞伎が始まった)寛永元年から数えまして、400年の記念すべき年です。江戸の町に鳴り響いた音色が、400年のときを経てもこうして鳴り響くことができるのは、本当に皆様のおかげでございます」と、感謝を述べます。「江戸歌舞伎を愛した父・勘三郎の追善で、ご出演くださる先輩、後輩、同輩の皆様から力をいただきまして、中村屋一同、来てくださったお客様に楽しんでいただけるよう、一所懸命勤めます」と、気を引き締めました。

 

歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」初日開幕

 「一番太鼓の儀」左より、田中傳左衛門、中村勘九郎、千田学歌舞伎座支配人

 第一部は『新版歌祭文』「野崎村」で幕開きです。場面は野崎村の百姓・久作(彌十郎)の家。久作の娘のお光(鶴松)と養子の久松(七之助)が婚礼を控えているなか、訪ねてきたのは久松と恋仲の油屋の娘・お染(児太郎)。田舎娘・お光の朗らかで愛嬌のある様子と、町娘・お染の品格あふれる佇まいが対比を見せ、二人は久松をめぐり恋の火花を散らします。婚礼の準備を嬉々として行うお光の姿や、駆け落ちをしたのち悲惨な最期を迎えた「お夏清十郎」の歌祭文に寄せ、久松とお染を諭す久作の長ぜりふなど、情緒たっぷりに見せます。切ない恋を描いた情感あふれる名作に、観客からは大きな拍手が送られました。

 

 続く『釣女』は、能舞台を模した松羽目の舞台で演じられる“松羽目物”の舞踊劇です。舞台に登場したのは太郎冠者(獅童)と大名某(萬太郎)。二人は妻をもとうと縁結びの神として名高い西宮の戎神社に参拝します。大名は釣竿をさげると、さっそく世にも美しい上臈(新悟)を釣り上げます。これを見た太郎冠者は、自分も美しい妻を娶りたいと釣竿をさげますが…。太郎冠者の釣り上げた醜女(芝翫)はその見た目でも笑いを誘いますが、愛嬌があり、太郎冠者を見つめる姿に愛らしさが滲みます。常磐津の滑稽味あふれ、風情漂う演奏が響くなか、松羽目物の品格も感じられるひと幕となりました。

 

 昼の部の締めくくりは、『籠釣瓶花街酔醒』。幕が開くとそこは満開の桜が咲き誇る吉原仲之町。あばた顔で田舎者の佐野次郎左衛門(勘九郎)は、兵庫屋八ツ橋(七之助)の絢爛豪華な花魁道中に出くわし、そのあまりの美しさに心を奪われます。次郎左衛門の姿を見て八ツ橋が微笑む名場面に、客席からはため息がこぼれます。次郎左衛門が八ツ橋を身請けする話を聞きつけた八ツ橋の愛人・繁山栄之丞(仁左衛門)に、悪知恵を働かせる釣鐘権八(松緑)が登場し、スリリングな展開を見せます。栄之丞への義理を立てるため、次郎左衛門への“愛想尽かし”をする八ツ橋と、「花魁、そりゃあんまりそでなかろうぜ」と絶望に満ちたせりふを吐く次郎左衛門。幕切れまで緊張感にあふれ、吉原で繰り広げられる人間模様に、場内は興奮に満ちた空気に包まれました。

 夜の部は、『猿若江戸の初櫓』から。新年を迎えたお江戸の日本橋界隈へ、猿若(勘太郎)と出雲の阿国(七之助)の一行がやってきます。将軍家への献上品を乗せた荷車を運べずに困っていた材木問屋の福富屋・万兵衛(芝翫)と妻のおふく(福助)を、猿若が音頭を取って一座の者(萬太郎・種之助・児太郎・橋之助・鶴松)と荷車を引きます。猿若の機転に感心した奉行の板倉勝重(獅童)は、猿若たちが板倉の領地である江戸中橋に芝居小屋を建てたいという願いを聞き入れ、これを福富屋が援助するという二重の喜びがもたらされます。祖父・十八世勘三郎、父・勘九郎が築き上げてきた猿若の役を、勘太郎が堂々とした舞台姿と軽快さあふれる動きでみせ、喝采が送られました。猿若祭にふさわしい、華やかでおめでたいひと幕となりました。

 

 続いては、歌舞伎三大名作の一つ『義経千本桜』より「すし屋」。すし屋を営む弥左衛門(歌六)は、恩人の息子である平維盛を弥助(時蔵)として匿っています。弥助と祝言を挙げることになっている弥左衛門の娘お里(梅枝)の微笑ましい姿や、母・お米(梅花)から金を騙し取り父・弥左衛門にばれないように動き回る権太など、おかしみのある場面で場内は和やかな雰囲気に。ある決意をした権太が鮨桶を抱えて花道を引っ込む場面は、客席に緊張感が漂います。源氏方の梶原平三景時(又五郎)が登場し、弥左衛門と権太の親子が見せる思いのすれ違いが起こす悲劇が、観る者の胸に迫りました。

 

 「猿若祭」の最後を飾るのは、舞踊の大曲『連獅子』です。幕が開くと、松羽目の舞台に白と赤の手獅子を携えた狂言師右近(勘九郎)と狂言師左近(長三郎)が登場し、文殊菩薩の住む清涼山にかかる、神仏の力によって出現したという石橋の景色を連舞で描きます。親獅子が仔獅子を谷底へと蹴落とし、駆け上がってきた仔獅子だけを育てるという「獅子の子落とし」の故事を踊り、花道から勢いよく這い上がる仔獅子の姿に、観客の気持ちも徐々に高まっていきます。軽快な間狂言を挟み、獅子の親子が花道に現れると、勇壮な毛振りを披露。長三郎は父・勘九郎との息の合った踊りを見せると、観客から惜しみない拍手が送られました。十八世勘三郎の十三回忌にふさわしく、親から子、孫へと受け継がれた中村屋の親子競演に大きな拍手が巻き起こり、大盛況のうちに幕切れとなりました。

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歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」初日開幕

 

歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」初日開幕

 2階ロビーでは、猿若人形や一番太鼓の撥も展示されています 

 

 劇場内1階の大間には、十八世中村勘三郎十三回忌追善の祭壇が飾られ、2階ロビーにはこれまで十八世勘三郎が勤めた思い出の舞台のパネルを展示しています。祭壇に手を合わせる姿や、懐かしそうにじっくりと写真をご覧になるお客様の姿が見られました。

 

歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」初日開幕

 

 歌舞伎座地下2階・木挽町広場では、「猿若祭二月大歌舞伎」オリジナル商品や、義援金チャリティーポスターを販売しております。観劇の際はぜひお立ち寄りください。

  歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」は26日(月)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2024/02/08