歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



「共感と感動」で“伝燈”を灯し続ける

 「伝統という言葉は実はあまり好きではありません。『硬直化した過去のもの』というイメージで見られやすいからです。しかし、時を経て現代に残っているものは、既に取捨選択されてきたもの。残るべくして残っているのだと思います」。

 長い歴史が、たくさんの文化を淘汰してきた。利休の時代からはだいぶ違うものになったが、受け継がれてきた茶の湯という文化の本質的なものを深く追究し、理解する。そして現代の生活様式に合わせて新しいものへ。保身に走らない。それが茶人、千宗屋の伝統に関する考え方だ。

 「伝統の本来の意味は『伝燈』です。『燈』は燈明の炎。受け継がれていく核の『燈』の部分は、固定されたものではありません。火を消さずに伝えるため、常に新しい油を注ぎ、燈芯を変えて『燈』を守ってきたのです。

 古くからのものに触れると、人は感動します。しかし、伝えるためには感動だけではなく、共感が必要です。現代の生活の中で『自分たちもやってみよう』と共感してもらい、そこからさらに生まれる感動。それが、今後の茶の湯の理想形なのです」

取材・文 山本理愛 写真 水沢竜一