歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



24歳の転機。そして感動を伝える書道家へ

 流麗、繊細、大胆。武田双雲の書は変幻自在だ。しかし、その書が持つ力はとても自然に、感情の深い部分にするりと潜り込み、心を震わせる。

 「美しいだけでは伝わらない事も沢山あります。書くときはどうしたら伝わるかしか考えてない。それぞれ言いたいことが違うから、様々な文字を書ける。伝えようとする工夫です」

 彼が書を始めたのは3歳の頃。母親である書道家、武田双葉に仕込まれた。それは書に触れたきっかけではあったが、本格的に書道家としての道が始まるのは、24歳の頃。まだ会社員だった。
 「学生の時から、暇なときは趣味で書を書いていました。でも職業にしようとか、アーティストを目指そうとは思ってもみなかった」。

 大学を卒業して社会人になり、今まで興味のなかった本を貪るように読み始める。自分の世界が社会と繋がったことで、様々なことに好奇心が湧いた。世界の広さを感じ、会社を辞めた。
 「なんだかいてもたってもいられなくなって。自分には書があるから、書で何かしたいと思うようになりました」。

 当初は名刺や表札の文字、様々な題字をネットショップで販売するビジネスを展開し、その手応えに喜びを感じた。起業家として、メディアに取り上げられたことがきっかけで、様々な媒体で特集を組まれるようになる。そこから「ビジネス」という冠が外れ、「アーティスト」、「書道家」としての武田双雲が誕生する。
 「気がつけばアーティストとしてメディアに露出していた。その頃は『世界から大きく評価されたい』という野心もあった」。

 しかし、野心は次第に消えてゆく。自らの書が人の心を動かすということの素晴らしさを知ったからだった。
 「人の役に立つなんて、はじめは思っても見なかった。アートとして評価されるということよりも、もっと大切なことを知りました。感動ということが、野心を超越してしまった」

 野心が消え、人間同士のコミュニケーションに重きを置く姿勢。人々は一層、その書に魅了された。
 「僕は言葉や思いと言う曖昧なものを、書で具現化して伝える。それを受け取ってくれる人がいる。それを考えると、楽しくてしょうがない。だから、毎日の小さな事、それこそ生きている事自体がとても嬉しくて、楽しいし、感動を覚えるのです」