歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



『佐倉義民傳』木内宗吾
撮影:松竹株式会社
 
「宗吾旧宅」で演出の串田和美さんと。
 
 
上:宗吾霊堂 大本堂
左:磔の刑にされた宗吾と、打首の惨刑に処せられた4人の子どもが祀られた墓所。今も参拝者が手向ける線香の煙が絶えない。

宗吾霊堂
千葉県成田市宗吾1-558
京成宗吾参道駅徒歩10分 
 
 
上:宗吾のモデル木内惣五郎から数えて十六代目となる子孫が今も守っている宗吾旧宅。
左:渡し守甚兵衛が命をかけて宗吾に舟を出したという逸話のある「甚兵衛渡し」。現在は公園として整備され供養塔と石碑がある。

「コクーン歌舞伎」の新しい挑戦になる

 これまで「コクーン歌舞伎」といえば、『東海道四谷怪談』『夏祭浪花鑑』『三人吉三』など、華やかであったり凄惨な美しさを持つ殺し場面があったりする、初心者にもわかりやすい演目が多く上演されてきたように思います。しかし今回選ばれたのは、史実に基づいて書かれたドラマ『佐倉義民傳』。三代将軍家光の時代、過酷な藩政に対して命をかけて抵抗した木内惣五郎こと木内宗吾の物語ですが、このようなシリアスなドラマを取り上げようと思われたのはなぜでしょうか。

 「『佐倉義民傳』は歌舞伎座さよなら公演があれだけ華やかな盛り上がりを見せた今だからこそ、やってみたい芝居でした。コクーン歌舞伎や平成中村座でも、刺激的な演目、刺激的な演出でやると、次もお客様からは“もっと刺激的なものを”という声をいただきます。『四谷怪談』で本水20トンのプールを使った時など、“次は火ですか、それともまた水ですか?”なんて(笑)。でもそのまま刺激的な表現を続けていっていいのだろうかという疑問や、今ここでクールダウンしてみたらどんな反応があるのだろうかという好奇心みたいなものが僕の中でもあったんです」

 8年前、初役で演じられたときと今回とでは、気持ちに違いがありますか。前回は渡し守甚兵衛を、当時88歳だった人間国宝の中村又五郎さんが演じられました。

 「そうでしたね。又五郎のおじさんには小さなころからとてもかわいがっていただいたんですが、『佐倉義民伝』にお願いして出ていただいたときは、体力もなくなっておられました。甚兵衛が宗吾を力いっぱい引きとめるシーンなどでは、その力が入らない。でも客席で見ていた女房は“おじさんは万力で止めているように見えた”って言うんですよ。芸の力って大きいですねえ。
 歌舞伎では積み重ねが大事だし、人生経験も生きてくるものなんです。僕がおじさんと共演させていただいたのは2002年12月のこと。それから8年近く経験を積んだし、孫が生まれてもいい状況なんだから(笑)、前回とは違った深みのある芝居ができるようになっているんじゃないかと思います」


 コクーン歌舞伎の観客は若い方が多いですね。その方たちに『佐倉義民傳』がどのように受け止められるか、興味深いです。

 「おかげ様で毎回若い観客の方がたくさん来て下さっています。『三人吉三』以来リピーターになった高校生がいるとか、小道具の仕事に入ってきたという話を聞くとすごくうれしいですね。今回の『佐倉義民傳』は脚本にだいぶ手を入れています。たとえば佐倉藩の殿様をただの悪人ではなく、人がよくてつい簡単に約束をしてしまったがために人を振りまわしてしまうような人柄に描くとか。殿様がリアリティを持つかどうかは扇雀さん次第ですね(笑)。
 また今回は原作にはない弥五郎衛門という人物を登場させます。これは橋之助にやってもらうつもりです。宗吾様も人の子で、内面にはいろいろ矛盾をはらんだ感情を持っていたと思うのだけど、それは彼がもう一人の“宗吾”として代わりに表現してくれるはずですよ。

 さっき、クールダウンと言いましたが、何しろ演出家(串田和美さん)が“ああ言えばこう言う”という人なので(笑)、その通りにはいかないと思います。たとえば、詳しくは言えないけれど、これまでとはまったく違う驚愕のラストシーンが待っていますし、浄瑠璃は作家のいとうせいこうさんにお願いしてラップ風にするつもりです。いとうさんのことはよく知っていて大好きな方ですから、どんな仕上がりになるのかとても楽しみにしています。そもそも歌舞伎は江戸時代、その時代を代表する格好いいものだったはずなんですよ。ラップもそうでしょ? こういう試みが若い方からどんな反応を引き出すのかも楽しみですね。せっかく渋谷で、しかもコクーン歌舞伎でやるわけだから、いろいろな挑戦をしてみたいと思っています」

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