歌舞伎いろは

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『佐倉義民伝』木内宗吾
(平成14年12月歌舞伎座)
撮影:松竹 
 
2010年6月渋谷・コクーン 歌舞伎第十一弾佐倉義民傳
公演詳細
みどころ
 

「自己犠牲」こそが歌舞伎に生きる日本の心

 歌舞伎は日本の伝統芸能です。歌舞伎の中に残っている「日本の心」とはどのようなものだとお考えでしょうか。

 「いろいろなものがあるかもしれませんが、やっぱり“自己犠牲”の心じゃないでしょうか。『寺子屋』にしても『熊谷陣屋』にしても、他人のために自分の子供を殺すわけですから、究極の自己犠牲です。これはなかなかよその国ではわかってもらえない。『寺子屋』などは、ヨーロッパでは多少理解してもらえるそうだけど、アメリカでやったら“とんでもない、なんで会社の社長のために子供を殺すんだ!”って批判されておしまいでしょうね。その点、宗吾様はとっても日本人的だと思います。自分の命はもちろん子供まで殺されるかもしれないのに、佐倉の人たちのために将軍にまで直訴するわけですから。
 日本には“殉死”という概念もありますね。自分が仕えた人が亡くなった時、一緒に死んでしまう。戦国時代とか江戸時代だけじゃない、明治天皇が崩御された時に陸軍大将だった乃木希典(のぎまれすけ)は奥さんと一緒に殉死しています」


 今回、宗吾様ゆかりの地を回られて、宗吾様が磔、4人の子が首を斬られた跡にあるお墓にも参られました。こうならないように事前に妻は離縁、子は勘当しておいたのに、藩は許さなかったのです。本当に哀れなことでした。

 「すさまじいというか、悲しい話ですよね。長男ばかりか3人の女の子の戸籍上の名前を男に変えてまで殺して、宗吾様の血を根絶やしにするっていうんですからね。宗吾御一代記館に殺される前に刑場に引き出された5人の姿が人形になっていましたけれど、僕もあそこでぐっときて、しばらく言葉になりませんでした。すっかり宗吾様の気持ちになっていましたから……。でも今回のコクーン歌舞伎では演出上いろいろな仕掛けがあるんです。これまでとは違って、刑死する場面から始まる。しかも宗吾は子供まで一緒に殺されるとは知らなかったという設定です。これは一例に過ぎませんが、いろいろな新しい試みをやっていくつもりです」

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