歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 
『妹背山婦女庭訓』お三輪
撮影:松竹株式会社
左:『御浜御殿綱豊卿』お喜世(平成12年10月 歌舞伎座)
右:『双蝶々曲輪日記』お早(平成20年4月 大阪松竹座)
撮影:松竹株式会社
関西・歌舞伎を愛する会 結成三十周年記念 七月大歌舞伎
公演詳細
演目と配役
みどころ
 
 

多彩な役を演じ分ける七月大歌舞伎

 『妹背山婦女庭訓』のお三輪は、娘らしい一途さと気の強さを持ち合わせた女性です。ただ、思いがけない運命に翻弄される、少しかわいそうな役柄でもありますね。

 そうですね。好きな男性・求女(もとめ)をひたすらに追いかけていったらそこにはライバルがいて、恋しい男を取られてしまうんですから。本来お三輪はとてもストレートな性格の女性。求女を思う一心で追いかけてきたのにライバルに取られ、すごく腹を立てる。その上、訳もわからないうちに殺されかかる。「なんで私が殺されなくちゃいけないの!」と怒りにふるえますが、「おまえの血が求女を救うためになんとしても必要なのだ」と言われると、「それならいいわ」と男のために尽くして死ぬ気に変わっていきます。私は最後お三輪が死ぬ場面は、微笑みを浮かべるようにしています。苦しみがあっても自分の生涯はこれでよかったのだと、納得して死んでいくさまを演じたいからです。
 お三輪という役は複雑で、しかもずっとしゃべって動いていなければならないので、初役の時はとてもつらかったことを覚えています。今度は2度目ですので、ゆとりを持って演じられればいいですね。


 『御浜御殿綱豊卿』はお父様の片岡仁左衛門さんが徳川綱豊を、市川染五郎さんが富森助右衛門を演じられます。『元禄忠臣蔵』の中でもドラマ性が高いお芝居。熱い男同士の論争もありますが、その中でお喜世は綱豊卿に仕えながら、助右衛門とは血のつながらない兄妹という微妙な立場です。

 大好きなお芝居です。重要な役柄でありながら、男同士のドラマの中でお喜世は決して邪魔をしてはいけません。しどころがない場面でも参加していないようで参加していなくてはいけない。綱豊と助右衛門の板挟みになりながらも、お喜世は主従の関係の方を取ります。しかし結局は兄の立場を理解し、自分は自害する覚悟を固めたうえで、客として訪れている吉良上野介を討とうとする兄の手引きをする…。綱豊や助右衛門と同じぐらい悩み、考えている女性なのです。女方であれほど政事(まつりごと)に関わる役はあまりないのですが、男性二人の邪魔をせずに複雑な心情を演じていくところが大変ですね。
 その一方で、綱豊がお喜世に対して「そなたはいつまでも町娘のように初々しくいてくれ」と言う場面もあります。お喜世が持つ初々しさと芯の強さを両方お客様に伝えられるよう、工夫したいと思っています。


 『双蝶々曲輪日記』の都、のちにお早。廓勤めのあと、なじみ客だった十次兵衛の嫁になったという女性です。

 「三越歌舞伎」で初めてお早を演じさせていただいた時、橋之助(中村橋之助)兄さんが十次兵衛で、うちの父に習われました。私はというと、父は「宗十郎(九代目澤村宗十郎)兄さんのなさったビデオを見ておくように。後は稽古場で教えるから」と言うのです。それは宗十郎さんがお持ちだった、廓にいたことがありながらも農家の嫁となった女性らしい柔らかさを学ぶように、という意味だったと思います。
 今回は久しぶりに『井筒屋』がつきますので、都とお早になってからとでは拵え(衣裳や髪型など)も違ってきます。「別の人かと思った」と言われないようにきちんと演じたいと思っています。


 『引窓』は陰暦8月14日、石清水八幡宮の放生会(ほうじょうえ)の前日の出来事が描かれます。昇ってくる月にススキを供えるお早の姿に、当時の習俗がうかがえて、しっとりとした雰囲気を醸し出しますね。

 私が初役でお早を演じた時、ある劇評に「孝太郎に生活が見える」と書いていただいたことがとても嬉しかったものです。今回は旦那様の役を父が演じますので、年代的には2世代上。大先輩との共演ですが、ちゃんと女房に見えるように頑張ります(笑)。

 初役の『竜馬がゆく』のおりょう。初演の時は市川亀治郎さんが演じられました。

 亀治郎君は気丈なおりょうを演じきってとても素敵でした。今回は脚本をもう一度改めて書きなおすということですので、私自身の中で消化して新しいおりょうを作り出したいですね。
 また今回は「関西・歌舞伎を愛する会」の結成30周年記念にあたり、会の立ち上げに尽力された澤村藤十郎のおじさんが『弥栄芝居賑』の構成を担当して下さいます。子供の頃から可愛がって下さったおじさんと久しぶりにご一緒できることを、とても楽しみにしています。

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