歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

「思いやり」が歌舞伎に生きる日本の心

 勘太郎さんはお父様に言われて、三津五郎さんに踊りを習っていらっしゃいましたね。

 踊りの基本的なことをしっかりと教えていただきました。それから荒事です。せりふ回しや身のこなしなどを丁寧に指導してくださったんです。荒事ですとついせりふや動きが直線的になってしまうものですが、それを抑えて全体に丸いボールのような弾みを持たせ、しかも絵になることが大事だと言われました。
 このほか『吃又(どもまた ※)』の又平も教えていただきました。特に心理描写ですね。こういうときにありがたいのは、三津五郎のおじさんをはじめとして、皆さんが本当に丁寧に教えてくださることです。「ここまで教えていただけるものなのか」と驚くこともたびたび。もちろんうまくできなければ怒られますが、それだけ役を愛しているから怒っていらっしゃることがわかります。僕が次の世代に教えるときは、まず上の方たちから伝えていただいたことをしっかりと教え、それから僕なりに工夫した部分も伝えていくつもりです。


 勘太郎さんがお考えになる「日本の心」とはどういうものでしょうか。

 「何かを思う熱い心」でしょうか。たとえば先輩たちだって、本当は役のことなどそんなに教えたくはないはずなんです。でもその気持ちを乗り越えて、次の世代を育てるために丁寧に教えてくださる。それを僕たちはありがたいと思って受け継いでいく。そこには「熱い心」と「思いやり」、そして「感謝」があります。これこそが、僕の考える日本の心なのです。
 いろいろと教えていただきながら若い役者が育っていきます。僕は、来年1月は三谷さんのお芝居に出ていますが、同じ時期に浅草で若手中心の「浅草歌舞伎」が行われています。僕は10年間「浅草歌舞伎」で育てていただきました。こちらにもぜひおいでいただければと思います。



※『吃又』:本外題は『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』
 
 

中村勘太郎

昭和56年10月31日生まれ。十八代目中村勘三郎の長男。曽祖父は六代目尾上菊五郎、祖父は十七代目中村勘三郎、七代目中村芝翫。61年歌舞伎座『盛綱陣屋』の小三郎で初お目見得。62年1月歌舞伎座『門出二人桃太郎』で兄の桃太郎役で二代目中村勘太郎を名乗り、初舞台。今年7月は大ヒット映画『おくりびと』の舞台版で主役を勤め、8月には祖父・父のあたり役、『東海道四谷怪談』のお岩を初役で演じた。

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