歌舞伎いろは

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『泥棒と若殿』伝九郎(平成19年5月 歌舞伎座)
撮影:松竹株式会社
八月花形歌舞伎
公演詳細
演目と配役
みどころ
 

三津五郎のお兄さんと息の合った舞台をお見せします。

 『泥棒と若殿』は、以前歌舞伎座で三津五郎さんと共演されています。三津五郎さん演じる幽閉された殿様と、思いがけず心のつながりを持ってしまう泥棒の伝九郎を演じられました。山本周五郎さんらしい、情のあるお芝居でしたね。

 三津五郎のお兄さんと巡業に出ることに決まったとき、お兄さんが「わかりやすいものを持っていきたいね」と選ばれたのが『泥棒と若殿』です。僕は本が好きで山本周五郎作品はずいぶん読んでいたつもりなのに、初役でやらせていただくことになった時はまだ『泥棒と若殿』を知らず、慌てて本屋へ行って買ってきました。あまり上演されない芝居なので、お兄さんと「いい芝居だけれど、さてどうやろうか」と相談しながら、ほとんど二人で作り上げていったようなものです。泥棒と殿様という普通なら絶対に接点のないふたりが偶然に出会って、そこから男同士の友情が生まれるという普遍的なお話。全国どこへ行ってもお客様に伝わるだろうと思います。お兄さんの芝居に僕がからむとか、僕のアクションにお兄さんが反応するという動きが自然にできて、わざとらしさのない仕上がりになりました。

 松緑さんはきっぷのいい世話物のお役も得意とされていますが、その味わいが泥棒・伝九郎役にもよく出ていますね。

 僕自身、世話物の芝居というのは嫌いではなく、今年も『魚屋宗五郎』で宗五郎役をやらせていただきました。『泥棒と若殿』は「書き物(新作歌舞伎)」ですけれど、『魚屋宗五郎』のような世話物にも通じるものがありますので、すうっと入っていけましたね。これから何回やらせていただけるかはわかりませんが、「書き物」であっても古典の名作と同じように、後輩たちが「自分もやってみたいなあ」と思ってもらえるようないい芝居にしたいと思っています。僕たちがいい芝居を見せられれば、「自分も」と思ってくれる後輩も増えるでしょう。古典歌舞伎だって成立したときは新作だったわけですし、真山青果や岡本綺堂、池田大伍のようにほとんど古典になりつつある「書き物」もたくさんあります。『泥棒と若殿』もそれに連なっていければいいと思っています。

 『身替座禅』では浮気者の山蔭右京を三津五郎さんが、嫉妬深い奥方玉の井を松緑さんが演じられます。特に坂東流家元の三津五郎さん、藤間流勘右衛門派家元の松緑さんと日本舞踊の世界でも大流派を率いるお二人の共演ですので、こちらも楽しみです。

 前の『泥棒と若殿』がセンチメンタルでしんみりさせる芝居ですので、次は笑って喜んでいただける『身替座禅』になりました。お兄さんが「『身替座禅』をやろうよ」と言ってくださって、よい取り合わせになったと思います。立役が勤めることも多いですが、玉の井役はどこまで行っても狂言物らしい品がなければなりません。お客様に笑っていただこうと崩せば崩すだけ受けは取れるけれど、僕はきっちり古典として演じることが大事だと考えています。嫉妬深い奥方でも本質的には旦那さんが大好きな女性であり、だからジェラシーが湧いてしまうだけなのです。
 また、僕も踊りの家元ですから、所作事としての『身替座禅』で、お兄さんとの踊りの掛け合いや綺麗さを見ていただければ嬉しいです。

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