歌舞伎いろは

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『摂州合邦辻』玉手御前  撮影:松竹株式会社

玉手御前の能動的な女性像に見る「日本の心」

 今回は通し狂言ですが、5月の「庵室」とはどのような違いが生まれそうですか。

 初役で演じさせていただいた時よりも、俊徳丸に対する思いがより深まると思うのです。序幕の「住吉神社境内の場」では玉手御前の思いが明らかになり、「高安館庭先の場」では雪の中で俊徳丸を追いかけようとする玉手御前と、それを止める羽曳野のやりとりがあり、クライマックスの「庵室」へとつながっていきます。5月は「庵室」だけでしたので、そこに至るまでの玉手御前を私自身が想像して、お客さまに伝えたいと思いながら演じていたのですが、この度は実際に演じて、お目に掛けることになります。お客様にも「庵室」に至るまでのストーリーを、わかりやすくご覧いただけると思います。それだけに、教えていただいた型や性根をより、深く理解しなければならないと身が引き締まる思いです。
 実母のおとくの台詞に「十九(つづ)や廿(はたち)の年輩(としばい)で、器量発明勝れた娘」とあります。若い継母で、また、おとくにとっては自慢の娘だったのでしょう。その母の愛を一身に受けた玉手御前が、道に迷ってしまった。父は怒りに耐えかねている。そんな家族のあいだの葛藤も、より説得力のあるものとして、観ていただけるといいなと思っています。

 菊之助さんが玉手御前に感じる「日本の心」とはなんでしょう。

 玉手御前は、好きな人のため、お家のために命を投げ出します。そんな女性が主人公の『摂州合邦辻』は、若い世代には理解しがたいかもしれません。私も役が決まったときに、玉手のこころがつかめなくて苦しみました。ただ、一ヶ月演じてみて、現代に通じるところも見出せました。玉手御前の能動的なところ、主体的に動いて好きな俊徳丸に思いを率直に伝えるところは、現代の女性に通じるのではないでしょうか。共感を持ってご覧いただけた手応えがありました。
 ある方が「玉手は『解毒婦』だ」とおっしゃったのを聞いてなるほどなと思いました。「毒婦」は悪い女のことだけれど、玉手御前は俊徳丸を助けるために自分の血を飲ませて「解毒」すると。お家のためという考えは彼女の心の片隅にあるでしょう。浅香姫への嫉妬もあるだろうけれど、それ以上に、自分は死んでも、俊徳丸の中に血として生き続けるのだという喜びが強い。鮮烈な女性です。女方は、控えめで一歩下がっている役が多いのですが、玉手御前のように多面的で能動的なお役は滅多にありません。やりがいを感じます。

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