歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

受け継いでいく芸と「和」が「日本の心」

 歌舞伎界に限らず受け継いでいきたい「日本の心」とはなんだと思われますか。

 「思いやる」「慮る(おもんばかる)」という言葉に表されるすべてでしょうね。日本人があまりモノを言わないのは、相手の立場や考えなどを想像し、思いやるからでしょう。返事を曖昧にするのもそう。自己主張があっても、まわりのスタッフを思いやる心も大切ですね。トップになれば皆が言うことを聞きます。その人が無理を言えば通るわけです。伯父の猿之助は非常に理性的な人で、できる範囲内で最善の方法を探すんです。言語化してまわりに物事を伝えるのが得意な人。感情ではなく頭脳で動くからでしょうね。

 論理的に考え、表現するところは亀治郎さんも伯父さんに似ていらっしゃるのでは?

 そうですね。うちの性格だと思います。歌舞伎の裏方さんはじめ、他の劇場の裏方さんなどを見ていても、実にきっちり仕事をされている。日本人は器用だし、繊細なのでハイレベルな仕事をします。そういう方たちとも協力しあって、いい舞台にしていきたいです。

 昨年は歌舞伎のほか、蜷川幸雄さん演出の『じゃじゃ馬馴らし』で女性役を演じられましたし、またテレビドラマもいろいろ出演されました。『龍馬伝』では龍馬を暗殺する今井信郎役で話題になりましたね。

 今井役で話をいただいたときは嬉しかったです。福山雅治さんのラジオを聴いていましたし、大ファンですから。僕のいとこの香川照之さん演じる彌太郎とのツーショットもあって、視聴者の方に喜んでいただけたのではと思います。この時の撮影は夕方6時から朝5時まで、3日間続けられました。昼間は『じゃじゃ馬馴らし』の稽古がありましたし、睡眠時間は移動の間ぐらいでしたね。

 本当に毎日がハードで、お休みがありませんね。お好きなラスベガスにもしばらくご無沙汰だとか。

 大変だろうと言われますが、僕が一番興味を持っているのは仕事なので、全然自分としては苦になりません。長い休暇もないけれど、好きなことをやっていますから。しがらみもなく、好きなことができる。そういう道を作ってきたのは伯父であり、僕の気質にも合っています。
 これからの抱負としては、「猿之助四十八撰」をやっていこうと。特に気負いはありません。

 昨年は東京と京都で自主公演「亀治郎の会」をなさいましたが、通常の舞台も地方が多い。そこで意欲的な演目に取り組まれていらっしゃるので、東京のファンの方は遠征することが多く、「亀代(亀治郎さんの観劇にかかる費用のこと)がかかって大変」と言っているようです(笑)。

 「亀代」ですか。それはすごいなあ。でも、東京にいれば何でも観られるというのではなく、「わざわざ観にきてくださる」というお客様は本当に観たいと思っていらっしゃる方。そこに出かけていって観る楽しさもあると思いますから、地方でやって好評だったから東京で再演、というのはあんまりやっていません(笑)。

 今年も意欲的な公演を楽しみにしています。
 
 

市川亀治郎

市川段四郎の長男、市川猿之助の甥。55年7月歌舞伎座『義経千本桜』の安徳帝で初お目見得。58年歌舞伎座『御目見得太功記』の禿たよりで二代目市川亀治郎を名乗り、初舞台。平成14年から自主公演「亀治郎の会」を主催し、第八回となる昨年は、国立大劇場で6公演、京都春秋座で5公演を行い、大きな成果を上げている。



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